02

 それは気づかなかった。以後気を付けようと思うが、いったいどこに気を付ければそのオーラとやらが消えるのか分からない。
 私が眉を寄せてじっと大神くんを見ていると、彼はへらっと笑って掘り下げる。

「で、彼氏いんの?」
「……どっちだと思う?」
「うわっ、小悪魔だ! 小悪魔がいる!」
「あはは」

 恋人の有無をこうして面と向かって聞かれたことは今までないけれど、困るものなんだな。いない、と言うのは簡単だけど、それは非常にむなしい。いるよと嘘をつくのもたいへんむなしいが。
 でも、まあ、ここはいないと言っておいたほうが、あとあと楽なのかな……。

「私……」
「あ、ごめん。話あとな。キャプテン! 代理連れてきました!」
「えっ? あれー上谷さんじゃん」

 気付けば、サッカー部の練習場所に着いていた。キャプテンの顔は、朝礼や全校集会などで見覚えがある。精悍な男らしい顔立ちのくせになかなかに軽いという噂だ。そう考えると、サッカー部は軽い人が多いのかもしれない。
 ところで、どうして私の名前を知っているのだろう?
 首をかしげたところで、キャプテンが走り寄ってきて、私の顔を覗き込む。

「残ってたの? 大神に無理やり連れてこられてない?」
「あ、いえ。暇だったので」
「キャプテンひでえ」
「まあ、暇ならお願いしようかな」

 大神くんは、顧問との連絡係、と言ったけれど、要は雑用らしかった。制服なのであまり激しいことはできないが、ボールを片づけたりはできる。制服のまま、汚れた練習用のボールをきれいにしようとしたら、肩にぱさっとジャージがかけられた。振り向くと、篠宮先輩が呆れた顔をして立っていた。

「制服、汚れんぞ」
「え?」
「それ、俺今日使ってないから、着ていいよ」
「あっ。ありがとうございます」
「大神に拉致された可哀相な上谷に、愛の手を」
「あははは」

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