愛しいおじさんの性癖
実際、このおじさんは変だ。変というか変態だ。
「お願いだからほどいてよお!」
「そのうちよくなるって」
「ならないよお!」
あれの時に縛るとか、私に変な格好させるとか、こんなのは序の口だ。
ひどい時にはなんかおどろおどろしいおもちゃを使って何時間も責め抜いた挙げ句にへとへとで声も出ない私を好き勝手蹂躙する。
正直なところもうろうとした意識の中で自分が何を言っているのか分からないところもあるので、何か秘密を握られている可能性もある。今のところそれを武器に脅されたりはしていないからそんなことはないのかもしれないけど、このおじさんはそういうことをやりそうだから困る。
散々非人道的な目に遭ってきた私に、今日、このおじさんと付き合い始めたことを最大に後悔するショッキングな出来事が降りかかった。
「やだ! 絶対いやだ!」
「見るだけ! な? 怖くないよ」
「あんたの目が怖いよ!」
昼間はこのおじさんはほんとうに普通のおじさんだ。一緒に雑誌とか読んでお茶を飲んでテレビを見て世間話をする。しかし、私がトイレに立った時になぜか彼のエロスイッチは入ってしまった。
排泄シーンを見せろと言うのだ。
「簡単だって、便器にM字開脚してそこをおっぴろげるだけ」
「何さらっと言ってくれてんのよ! 絶対いや!」
半泣きになりながらトイレのドアを閉めようと格闘する。おじさんも開けようと格闘する。男女の力の差は歴然としていて、私が負けるのも時間の問題だし、と言うか尿意がやばい。
「お願い! ほんとうにやめて! 漏れちゃう!」
「漏らせ漏らせ、なんなら録画してやる」
「最低だよあんた!」
半泣き、いや訂正しよう、号泣状態で私が拒否していると、おじさんはさすがに私が可哀相になったのか、手の力を少し緩めた。その隙を逃さずトイレのドアを閉め鍵もかけて急いで用を足す。
トイレを出ようとすると、ドアに圧がかかっていて開かない。すっごく嫌な予感。
「……何してるの」
「音だけ聞いてた」
もう声も出ない。ドアにへばりついていたおじさんを蹴り飛ばし、私は荷物をまとめた。
「おい、どこ行くの」
「もう帰る! ってか! もう来ない!」
「なんで?」
「トイレしてるの見せてなんて言われてこれ以上付き合いきれるはずないでしょ!?」
心底ぽかんとして意味が分からないと言う顔をしているおじさんに理解が及ばない。なんでここまで狼藉をはたらいておいて、私が別れを切り出す意味が分からないのだ。
「そういうのしたいならイメクラでもなんでも行ってよ! 私は普通の人と付き合う!」
む、と考え込んだおじさんに思いの丈をぶつけると、おじさんは私に手を伸ばしてきた。びくりと必要以上に震えてしまうと、おじさんは抱きしめようとしていた腕を方向転換して、私の頬に伸ばした。
「泣くなよ」
「誰のせいだと思って……!」
「おじさんね、君が泣くの大好きなんだけどさ」
「最低だよ!」
「でも、悲しくて泣かれちゃうのは嫌いなんだなあ」
指が優しい。拭ってくれるおじさんは、優しくふにゃっとした笑みを浮かべて私を今度こそ抱きしめた。駄目だ。
「ごめんね、君がなんでも許してくれちゃうから調子乗ってたね」
「……」
調子乗ってたとかそういう次元じゃない。
「もう言わない」
当たり前だ馬鹿。
「でも、これだけは分かって。誰の放尿シーンでもいいわけじゃないのよ? イメクラのお姉ちゃんがおしっこしてくれても全然燃えないから」
私の排泄シーンで燃えるのもそれはそれですさまじく問題だと思いますけどね。
「君のだから、全部見たいわけ。でも、そうだね、おしっこはちょっと恥ずかしいね。ごめん」
ぎゅっと抱かれる腕に力がこもる。これはたぶん、飛び交う言葉はちょっと、いやかなり過激だけどおじさんは必死で私を引き止めようとしてくれている。そして私はそれにすっかりほだされようとしている。
おじさんは私の頭に顎を擦りつけて、甘えるように身を寄せてきた。ああ、もう。
「……今度変なこと言ったら絶対別れる……」
「うん。今日は普通のセックスしましょう」
……。……。
結局するんかい!
20140311
20140619