麗しの女神
今までお前と一緒にいて、ほんとうに幸せだったんだよ。
俺はそう言って泣いてる彼女を抱きしめた。たぶん、俺にとってのお前は神様よりも尊くて気高くて、お前さえいればなんだってできるって信じてた。
怖いくらいにお前のことが大事だったんだよ。
たぶん、彼女に何かあってその存在が喪われてしまったら生きている意味すら見失うほどに。
いい年して、いい大人が、何を言ってるんだってお前はきっと笑うだろう。自分のことをほんのお嬢ちゃんだと笑うだろう。
でもな、ほんとうに俺はお前に何度も救われて、掬われてきたんだよ。このろくでもない世界のどん底から、神様みたいに手を伸ばしてそれで俺を掬い上げてくれたんだよ。
紅茶みたいなその茶色い色の可愛い瞳とかさ、ほんとうになんでこんなに美しいモンが世界にあるんだって俺は驚いたんだ。びっくりするほど澄んでてさ、綺麗で可憐で、それでどんな醜いモンを映しても笑ってくれるだろう。俺みたいなクズを映しても、笑ってくれただろう。そして手を伸ばしてくれただろう。
だから、今度は俺が手を伸ばす番なんだ。俺の汚い手なんかお呼びじゃないかもしれないけどさ。
お前が道を見失うなんて考えたこともなかった。だってお前神様だから。
彼女は相変わらずしくしくと泣いている。彼女が泣けば、世界は雨に彩られる。
いつだって明るく輝いて俺の生きる道を示してくれてたよな。こっちだよって手招きしてくれてたよな。俺だって、つたないけどもそういうお前を見てきたから、真似くらいはできるんだ。
こんな薄汚れた手でごめんな、でもこっちだから。ちゃんとその顔を上げて、俺を見てくれな。
抱きしめた腕に力を込める。涙の一粒までこんなに美しくて、ほんとうに、俺はいったい何を見てるんだろうって、もしかしてこの世のものじゃない何かを見てるんじゃないだろうかって錯覚するほど。
でも綺麗なその涙は、俺にはつらいんだ。だから、泣き止んでほしい。
それでいつもみたいに笑えよ。笑って俺を導いてくれよ。
こんなクソみたいな世界でさ、紅茶色の目をきゅっと細めて笑ってさ、お前だけはきらきら輝いていてほしいから。
今までお前と一緒にいて、ほんとうに幸せだったんだよ。
俺を幸せにしてくれたんだから、少しお返しをする番だよな。今度は俺が、ほんのちょっとだけでもお前を幸せにできるように頑張るから。
これからもお前と一緒にいて、幸せだよって誓うから。
怖いくらいお前のことが大事だよ。
だから、笑えよ。
20140627
20150219