子猫の目

「もっこりしてる……」
 ベッドに寝そべった彼女は汗に濡れた肌を惜しげもなく俺にさらしている。その骨っぽさとなだらかな曲線が同居する身体。俺がさっき散々に貪ったものだ。
 俺からすれば彼女はまだまだ子供で、まあ二十歳は越えているんだけど、それでもやっぱり年の差を考えると相当に幼い。けれどまあ、さっきまではちゃんと女だった、な。
「あのさあ、自分が何言ってるか分かってる?」
「……ん?」
 ああ、やっぱり分かっていないんだな。俺の股間を見てもっこりとか言い出すんだから、どうせ意識も朦朧としているんだろうとは思ってた、思ってたさ。そこら辺がガキだって言うんだ。
 ボクサーパンツを穿けば、どうしたってそれが多少は生地を伸ばして押し上げる。通常の状態でも、だ。あぐらをかいてため息をつく。
 彼女が、俺の足に縋り付いてきた。膝に顎を乗せて、あーんと口を開ける。
「何?」
「きもちわるい」
「……悪かったよ」
 調子に乗ってそこに出した俺が悪かったよ。だからそんな純粋な瞳で見るなよ。
 なんとなく気まずい気持ちになって彼女の頭を撫でて髪を梳いてがしがしと掻き混ぜると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。なんだ、可愛いな。
「英兄ちゃん」
「兄ちゃんって呼ぶな」
「英治さん」
「ん」
 ご近所さんだったせいか、彼女は昔から俺を兄のように慕ってくれていた。その癖が抜けないで、今でも俺を英兄ちゃんと呼ぶのだが、さすがにこんな恋人同士の行為の中で最も濃厚な時間に呼ばれたくはない。なんとなく後ろめたい気持ちになるし。兄ちゃん、という響きに興奮する性質は、残念ながら持ち合わせてはいないのだ。
 彼女はとろりとした声で、ふにゃふにゃの顔をして俺の脛に額を擦りつけた。俺はいいけれども、こいつは脛毛で気持ち悪くないのだろうか。
「すき」
 俺の足元でもじもじしながらふにゃんとご機嫌の子猫に、俺のもっこりががっつり反応した。がしっとその腕を掴むと、不思議そうにぽやんとした目で見返される。
「なに?」
「何だろうな」
 なに、と聞いた丸い目はどうしたって可憐で愛らしくて、衝動は抑えられそうにない。腕を掴んだまま彼女に跨って、顔に顔を近づけると素直に目を閉じた。
「分かってんじゃんか」
「うん、英治さんのことなら、なんでも分かるよ」
「……」
 この女は俺を殺す気らしい。こんな小娘に翻弄されている自分が情けないやら可愛いやらで、俺は諦めてその小さい薄紅色の唇に親指をかけた。


20140623