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「……なにそれ」
「文化祭のー出し物」
「……それが?」
「うん」

 学校帰りに、自分の家より近い僕の家に寄って行くと言ったすずが、部屋に着いてまずしたこと。

 一、鞄の中身をひっくり返す。(先月配られたはずのプリントが出てきた)
 二、ポケットからアメをしこたま取り出す。(なぜか彼女はいつだってポケットに菓子を常備している)
 三、サブバッグをひっくり返す。

 三で出てきたのが、問題のそれ。
 すずが文化祭のクラス出し物と言い張る代物。

「……なに? メイド喫茶でもするの……?」
「惜しい! コスプレ喫茶!」
「……」

 で、そのコスプレ喫茶でのすずの役割は、メイドさんなわけだ?
 なんてヴァイオレントな企画なんだ。僕のとこなんて、無難に女装喫茶なのに。
 え? 僕が女装をするかって? しないに決まってるじゃないか。だって文化祭の実行委員は僕なんだから。

「りっくん、それって職権らんよーって言うんだよ」
「知ってる」
「女装見たかったなぁ……」
「……」

 メイド服のシワを伸ばしながら、すずがにこにこと笑う。絶対可愛いのに、と言うが、僕にとってそれが褒め言葉ではないことを、たぶん分かっていない。
 と、ここで、すずがメイド服のフリルに埋もれていたあるものを引っ張り出した。

「パンパカパーンパンパーン! ねーこーみーみー」
「……え、それって猫なのに耳がないドラえもんに対する嫌がらせ?」
「ブブー、猫耳です」
「……」

 なんてことだ。猫耳メイドさんだって……?
 それっていわゆる今流行りの『萌え〜』ってやつじゃないか。
 いやいやいや、僕にそんな趣味はないけれど。
 文化祭に来る他校生やどこぞのおっさんの目に彼女のそんな姿をさらすのは忍びない。
 生徒会も生徒会で、どうしてこんな企画を通したんだ? 一度よくよく言って聞かせる必要があるのかな?

「と言うわけで、試着するからちょっと外出てて?」

 ……は?

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