プロローグ

 風が冷たくなってくると自販機にホットドリンクが並ぶようになる。見た目にもあたたかそうな色合いのそれらの前で指がボタンを撫でるように悩む。
 結局迷った末にミルクセーキのボタンを押した。缶が落ちてきたのをかがんで拾い上げ、手の内で少し冷ますようにして転がしている。そのままそそくさと自販機の前から立ち去る。
 甘いものが好きで、冬になるとミルクセーキをよく飲む。大学のカフェテリアのケーキが大好物だ。特に苺のショートケーキ。
 遠くで友人が呼んでいる。そちらに近寄って他愛ない天気の話を皮切りに、授業が面倒くさいだの、レポートが仕上がらないだの嘆く。いつものとおり、大して苦痛でもないものをあえてあげつらうことで人間関係を円滑にしている。
 お気に入りのコートは黒、スヌードは生成り色。太いハイヒールのブーツが履きやすくて気に入っている。
 メイクはいつも、自分の個性である猫のような跳ね上がった目尻を強調するようにアイラインを引いて仕上げる。唇の色がもともと濃いから、リップは控えめ。最近額に小さなニキビができた。ちなみに潰したら腫れた。
 肩の辺りで揺れる髪の毛は黒で、染めたことはないのがちょっとだけ自慢だ。染めてみたいと思わないわけではないけれど、黒は自分に似合うと思うから。
 親友は素直で真面目で恋人はちょっとお調子者で、バイト先はアットホームな雰囲気を売りにしている居酒屋。いい職場だけれど店員たちが全員アットホームなわけではない。
 自分の名前は、好きじゃない。なぜなら少し響きが今時じゃないから。
 大学沿線にひとり暮らしをしていて、故郷に残してきた家族構成は父、母、兄、弟。父は不動産関係の仕事をしていて、母は専業主婦、兄は実家を出ているものの地元で働いていて弟は中学二年生。家族仲は良好で、最近兄に恋人ができてなんだかんだとのろけられている。
 嫌いなものは、ブロッコリー。あのむわりと口から鼻に抜ける青臭さがどうしても好きになれない。
 落ち込んだときはひとりでほんの少し煙草を吸う。
 さしあたっては、以上。
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