3

 ミキは、青子の住むマンションのキッチンで夕食をつくっていた。だらだらと冷や汗が流れてきてもおかしくない状況だ。なんでこんなことになっている、とミキは自問した。
 そんなミキの周りを、花の周囲を飛び回るミツバチのように、青子がなにやら歌を口ずさみながらきょろきょろとうろついている。何をつくっているのか気になっているのだろう。それは別にいい。ミキは、どうやら今日自分がここに宿泊するだろう事実についていけていなかった。

「青子」
「ん?」
「なんで俺、ここにいんの」
「え? ミキちゃんがいいよって言ってくれたんじゃん」
「いや、だから……」

 よく分からないままに言質を取られていただけのような気もするが。

「それ何?」
「これは肉団子に入れるレンコン……いや、だからさ、なんで」
「レンコンを肉団子に入れるの?」
「細かく切ってな。そうすると食感が……だから……」
「ふーん。ふううううん」

 青子は、ぱっとミキの近くを離れて、冷蔵庫からカルピスを取り出して飲んでいる。その能天気っぷりと言ったらない。

「青子」
「ぷあ?」
「なんで、春菜さんが出張だと、俺がここにいることになんの」
「ん?」
「だから、なんで俺を呼んだんだよ」
「幽霊出るから」
「…………幽霊?」

 情報を整理する。ミキがここにいるのは、幽霊が出るからである。

「なんだそれ」
「最近ねー、お姉ちゃんも誰もいないのに、勝手に物置のドアが開いたり、閉まったりするの」
「勝手に」
「うん。だから、怖いからミキちゃんと一緒に寝るの」
「……」
「あっ、それなにするの!?」
「肉団子を焼くんだよ。こうしてスプーンで形をつくって……」
「ふううん!」

 だいたい分かったが、まったく分からん。とミキは思う。
 まあとりあえず、青子にも怖いものがあるということが分かっただけでも新たな発見である。そうか、幽霊が怖いのか。ミキは、自分は全然霊感などないし、幽霊もそんなに怖くないので、新鮮だった。あれ、ちょっと待てよ。

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