OMAKE
全部、愛情表現

 俺のシャツのボタンを三つ外したところで、比奈が固まった。ん、まあ予想通り、と思って、けれど口を出さずに見守っていると、俺の薄い胸板をじっと見ていた比奈が、そわそわと顔を上げて上目遣いに見つめてきた。その潤んだ瞳に刺し貫かれたように背筋が粟立つ。ぞくぞくする。
 ぞわりと目元に熱が溜まるのを感じる。涙があふれそうなくらいに目の周りが熱くなっていく。悲しくもなんともないし、泣くわけではないけれどどうしてかそんなふうな気持ちになる。
 じっと、至近距離で見つめ合う。先に根を上げたのは、比奈のほうだった。ぱっと視線を逸らしてまた俺のシャツに手をかける。
 投げ出していた足を、膝を折り曲げて立てる。俺の、広げた足の間にすっぽりと収まった比奈は正座を崩したような体勢でいる。女の子座り、と言うんだろうか。
 その立てた膝で比奈の身体をいたずらに挟むと、細い小さな身体は大げさに震えた。

「せ、先輩」
「尚人、だよ」
「……」

 俺がわざわざ呼び方を訂正する理由を痛いほど知っている彼女は、ほんのりと頬を赤く染めて俯いた。そう、何度も何度も、その身体に記憶に刻み込むように教えたから。
 比奈をそうして手の中で転がすのにひどく、鬱陶しいくらいの愉悦を覚えるけれど、満たされることは決してない。そう、決して。

「どうして手、止めるの?」
「っそれは」
「それは?」
「……」

 再び顔を上げた比奈の瞳は真っ黒で、今にも零れ落ちそうに潤んでいる。一点のくすみもないそれを見ていると、嗜虐心が燃え上がってしまう。吸い込まれそうなその瞳に、精一杯の抵抗をしているせいかもしれない。
 比奈の耳元に顔を近づけて、柔らかで小ぶりな耳垂を食む。福耳とは縁がないけれど、その耳垂は確かに俺に幸福をもたらすのだ。

「先輩」
「比奈」
「……尚人」
「いい子」

 ちゅっと音を立ててそこから口を離すと、頬だけではなく顔だけではなく、首筋や耳まで真っ赤に染めているのに気が付いた。
 いじめすぎたのかな、と思いながらもどうしてもやめられない。
 俺のそういう一挙一動に心を惑わす比奈を、動揺してしまうその可愛さをじっと目に焼き付けておきたいから。俺が、彼女の心を揺さぶっているという事実を知って安心したいから。
 シャツのボタンは三つ外れていて、胸板があらわになっている。どこを見ればいいのか分からなくなって視線の定まらない比奈に思わずため息のような笑みが零れ出でてしまう。
 けれど、そろそろ俺のほうを見てほしくて。

「比奈、可愛い」
「……!」

 頬擦りして、今日はここまでにしようと決める。いじめるのは、ここまで。
 あとは散々可愛がってあげる。比奈がどろどろに蕩けてぐずぐずになってしまうまで、余すところなく食べ尽くしてあげる。
 それが意地悪だって、比奈はぐずるけれど。
 そろそろ、それが俺の愛情のかたちだって、分かってくれてもいいんじゃないの。


20140824