01
「空、転ぶぞ」
「えっ? うわあっ」
「言わんこっちゃねえ」
派手に頭から地面に突っ込んだ空に駆け寄り抱き起こす。砂場だったからか目立った外傷はなさそうで、本人も痛くはなさそうだったけれど。
「うわあああん!」
痛くないのに泣く理由がよく分からないが、空は大声を上げて泣き出した。突然自分の身体のバランスだの重心だのが崩れてしまったのにびっくりしたのかもしれない。
なだめながら、面倒くさい、と思う。日曜の昼間、頼子は達樹の学校の懇親会とやらに出かけていて、家には俺と達樹と空が残された。その達樹は、友達と遊ぶとかで飯を食ったら早々と、誕生日に買い与えたポータブルゲーム機を持って出て行った。
そして空が、公園に行きたい、と言い出したのだ。
こどもが苦手とか、育てるのを頼子に一任しているとか、そういうわけじゃない。むしろ大家族になるのを望んだのは俺のほうだし、世間の父親と比べればまあまあ育児にもかかわっているはず。それは、当然であるとか父親の義務であるとか母親だけに育児を任せるなんてとか、そういうなんだかよく分からない問題のせいではなくて、俺がこどもの面倒を見たいのだ。
ただし、俺は理由のない血と涙が大嫌いだ。
「空、痛くないだろ」
「いたいよおおおお」
「嘘つけ、土しかついてねえ」
「いたいもん」
額と鼻の頭の土を払う。傷もないし、たんこぶになりそうにもない。だから、空がこんなふうにわんわんわめく理由が理解できなくて、俺は面倒くさくなる。
「空。男はそんな簡単に泣くもんじゃねえ」
「ぼくおとこじゃないもん」
「嘘つくな」
お前の股間にぶら下がってる小さい棒はなんだ。
たぶん、これまで達樹が泣いたりしたときに得た経験からすれば、こいつは気が済むまで泣きわめき続ける。涙が出なくなってもぎゃあぎゃあ叫び続ける。それを考えるとめちゃくちゃ面倒くさい。
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