06
「なんか誤解してるっぽいけど、あいつ相手でも誰相手でも別にどっか行こうとか誘ったことねえよ」
「……」
そんなの、言われなくてもきっと分かってた。でも不安だと、そういうの疑ってしまう。
じわあっとまた涙が浮かんできたのを見て、ため息をつかれる。
「泣きすぎ。化粧落ちるぞ」
「だって」
「てか、ここで俺がじゃあどっか行く? とか言ったら明らかにご機嫌取りじゃん」
それは、そうかもしれない。
わたしが泣くからあゆむは仕方なく誘ってくれたって思う。それはそれで、わたしはまたさみしいのかもしれない。
「だからさあ、もうこれが俺だってそろそろ気づけよ」
「……」
「別に、どっか行かなくても、ちゃんと好きなんだから」
「……」
「一年一緒にいるんだから、もういい加減理解しろよ」
横暴。傲慢。暴君。傍若無人。
でも、そうじゃなかったら、あゆむじゃない。急に優しくなったり、デートに行こうとか言い出したら、あゆむじゃない。あゆむは、してほしいことを全部面倒くさがるけど、ちゃんとこうして、好きでいてくれる。
そうっとあゆむの背中に腕を回して、ぎゅっと抱きつく。
「もっと好きって言って」
「は?」
「言って」
「……好きだよ」
「もっと」
「はいはい、好きだよ、好き」
「わたしも、大好き」
「知ってる」
これからもきっと、デートに誘ってくれないし、イベントもわたしから言わないと一緒にいてくれない。わたしが不安がっていることやその理由をたぶん分かってくれないし、元カノ、とか、べたべた、とか無神経なことを平気でする。
でも、それがあゆむだから。
「ネックレス、ありがとう。一生大事にする」
「たりめーだろ。失くしたら殺す」
大丈夫、失くしちゃったら、殺される前にわたしが悲しくて死んじゃうから。
20130713
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