04



 ほっとしてため息をつくと、頬を思い切りつねられた。

「いひゃ!」
「勝手にどっか行ってんじゃねえよ」
「ごめんなさい……」
「なんで携帯出ないの」
「で、電源切れてて」

 ため息をついたあゆむが、じろ、とわたしを睨む。首をすくめてなんとかやり過ごそうとおもったけど、あゆむには効果がないようだった。なんだかすっごく怒ってる。

「ふざけんなよ、どんだけ探したと思ってんだよ」
「……う」
「見つけたら見つけたで変な奴に絡まれてるし」
「ごめんなさい」
「しかもなに勝手に迷子になったくせに泣いてんの?」
「うう」

あゆむが深々と息を吐いて、わたしが持っていたりんご飴を見た。

「……まさか、それ買いに行って迷子なったの」
「ち、違うの、あゆむが食べたいかなって思って、それでふたつ買ったんだけど、一個落としちゃった……」
「全然違わねえじゃん、馬鹿かお前」

 三度目のため息。それから、わたしの手をぎゅっと握った。

「こっち来い」
「えっ」
「花火、見るんだろ」
「う、うん!」

 ずんずん歩いていくあゆむの歩幅に必死でついていきながら、近くの神社の境内に入る。ひとけはあまりないし、花火はよく見えない。

「あの、あゆむ?」
「この先行くと穴場って、さっき聞いた」
「え」

 がさがさと神社の裏の林に入って、少し開けた場所に出る。

「穴場……?」
「さあ、どうだろ」
「よく見えないよ」
「別にいいだろ、人いねえし」
「う、うん」

 やっぱり、あゆむは花火なんかどうでもいいんだな。たしかに人がいないという点では穴場だけど、肝心の花火の景色がいいかと聞かれるとそうでもない。見えないってわけじゃないけど、ちょっと遠い。

「お前さあ」

 遠い花火を見ながら、あゆむがぽつんと呟いた。

「ん?」
「俺のいないとこで泣くの、やめろよ」
「……」
「泣くんだったら俺がどうにかできる距離にいるとこで泣け」
「……」
「返事は」
「……うん」

 あゆむは、わたしが泣いていてもどうにかしてくれるわけじゃないと思う。
 泣いているわたしを不器用に慰めることしかできないと思う。器用に甘やかしたり、ほしい言葉をくれるわけじゃないと思う。
 でも、どうにかしたいって。そう思ってくれているだけで、わたしは心がとろんと甘い液体で満たされてしまう気持ちになる。

「ありがと」
「は? 何が?」
「なんでもない!」


20130623

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