01



 学校について廊下を歩いていると、突然背後から名前を呼ばれた。

「あのっ、真中くん」
「……」

 振り返ると、顔を赤くした女子生徒。顔も名前も全然まっく覚えがないが、上履きの色で同級生だと分かる。俺のほうを見て、ぱちぱちとまばたきをする。中の上。まあまあかわいいけどそれがなに、って感じの女だ。
 別に顔がいいから悪いから態度を変えることはないけど。と睨みつける。

「何」

 聞くと、肩をびくりと引きつらせて、女は両腕を俺に突き出した。その手には、小さな袋が握られている。呼び止められただけでも意味が分からないのに、ますます分からない。

「何?」
「あ、の、チョ、チョコ……」
「は?」
「チョコ、です……」
「くれんの?」
「え、あ、はい」
「あっそ」

 女の手から、とりあえずそのチョコとやらを受け取る。まじまじと見る。袋の中身は小さな箱で、袋と箱に印字されている店名はけっこう有名な、デパートの地下とかに入っているチョコレート屋のものだ。高いから、普段は絶対自分で買ったりはしないブランドの。

「サンキュ」
「……!」

 よく分からないけど、もらえるものはもらっておく。毒だのなんだの入っているわけではなさそうだし。ラッキー、みたいな気持ちで。
 チョコの包みを持ったまま廊下を再び歩き出すとお、背後からわあわあ騒ぐ声が聞こえた。振り向くと、さっきの女と、どっからわいたのか別の女が、手を取り合って何やら騒いでいる。なんだあれ。
 とりあえず今、午前中の最後の授業中なので、早めの昼休みとすることにして、授業は午後から出ることにする。
 屋上について包装紙を破ってチョコの箱を出す。ふたを開けると、種類の違うチョコが六粒入っていた。本格的……。
 ピンク色のやつを口に入れる。…………え、うまい。これ何、え、ナニコレうまい。
 つい、一気に四粒食べてしまった。もったいない気もするがうまいので手は止まらない。残った二粒も、あっという間に腹の中に消えた。
 すっかり満足した腹をさすり、ところで俺はなんでチョコをもらったんだ、という疑問がわいてくる。
 寝そべる。コンクリートが冷たいし風も冷たいけど、今更どこかに移動する気も起きない。ぼんやりしていると、屋上の扉が開いて頼子が顔を出した。

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