09



「イテッ」

 あゆむに連れてこられた場所は保健室で、まるで勝手知ったる我が家のように冷凍庫から氷を出して袋に入れ水を注ぎ、目に当てとけ、と渡された。
 目を冷やしていると、だんだんと頭が冷静にはたらいてきて、花田くんの頬を叩いたことに今さらながら少しの罪悪感がわいてきた。
 そして、目の前で鏡を見ながら額に絆創膏を貼るあゆむが、不思議でならなかった。

「……あゆむ、なんでここにいるの?」
「はあ? 何でって、怪我したから」
「そうじゃなくて……えと、だって、わたし、あゆむを怒らせちゃったし、嫌われたかって思って……」
「……背中、やって」
「え?」
「背中も怪我したけど、届かねぇの」
「あ、うん」

 質問には、答えてくれないのだろうか。
 わたしはあゆむに、まだ嫌われてはいないのだろうか。

「……別に、お前に怒ってたわけじゃねぇんだよ」
「……え?」

 パーカーと下に着ていたタンクトップを脱いで上半身を裸にしたあゆむが、わたしに背を向けたままぼそりとつぶやく。
 肩甲骨のあたりにできた、大きな擦り傷に合う絆創膏を探していたわたしは、思わず手を止めた。

「お前、泣いてたから」
「……」
「キスくらい、ってキスでも十分むかつくんだけど、それくらいでお前、泣かせるくらい追い詰めてたのかって思って」
「……誰、が?」
「俺が」

 淡々と語るあゆむに、首は傾ぐばかりだ。
 いつ、あゆむがわたしを追い詰めたのだろう。
 ちょん、と擦り傷をコットンでつつくと、あゆむの肩が大げさに跳ねた。怪我の痛みには無頓着なくせに、こういう痛みにはなぜか弱いのだ。

「……自分で、分かってんだよ。すげぇ嫉妬するとか、お前のこと束縛してるとか」
「あゆむ……」
「俺が怒るって思ったから泣いたんだろ? そんな理由でお前のこと泣かすの、やなんだよ」
「違うよ」
「……」

 だんだん元気をなくしてうなだれていく後頭部に、待ったをかける。

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