CALL ME !
破れた窓から柔らかな光が差し込む昼下がり。
外では人々が忙しなく動き回っているというのに、この館の主、DIOさんは目の前で未だに惰眠を貪っている。
窓一つない主の寝室で、私は暗闇と一緒に息を潜め、深い眠りについているDIOさんを観察する。
豪華なベッドに横たわる姿はまるで死体だ。
かすかに胸が上下するので生存確認はとれる。
とても男性とは思えない程、肌理細やかで白い肌。
女性的な手。この手があれ程赤く染まるとは信じられない。
私より長い睫毛。今は閉じられているが、瞼の下に潜む赤い瞳。
狂気を孕んだその瞳に、人は吸い寄せられこの館に集まる。私もその一人なのかもしれない。
そして…
「なまえ」
DIOさんは依然目を閉じたまま、私を呼ぶ。
「…なまえ」
その口で、その声で私の名を呼んで欲しくて、黙る。
「なまえ、私はあまり気の長いほうじゃない」
「知ってます、DIOさん」
でももっとその声を聞かせて欲しいのです。
「なまえ」
気付くと、DIOさんに前から抱きつかれる形でベッドの中に引きずり込まれていた。
「世界使いましたね、DIOさん」
「貴様のくだらん遊びに付き合っていると貴重な時間が潰れる」
顔をDIOさんの方に向けると、眠そうな赤い瞳とぶつかった。
「私はもう一眠りする。お前も寝ろ、なまえ」
「はい、DIOさん」
DIOさんの胸板に顔をすり寄せ胸いっぱいに息を吸う。
すると不思議な事に、ちっとも眠くなかったのに瞼がゆるゆると下りてくる。
「おやすみなさい、DIOさん」
「おやすみ、なまえ。良い夢を」
そして瞼に感じる微かな感触。
今のはいったいなんだろう、もううまくまわらない頭で一生懸命考える。
もういいや、起きたら聞こう。
そしたらたくさん話をして、たくさん声を聞こう。名前を呼んでもらおう。
いつか来る別れの時、忘れてしまわぬように。
貴方との時間を、持っていけるように。
(2011.9.6)