12.凱旋行進曲

二階建てアパートの二階一番奥が私の部屋。
耐久年数なんてとっくの昔に過ぎてしまったのでは、と思うくらいにこのアパートは古い。
なんでこんなオンボロアパートにしぶとく居ついてるかと言うと、家賃が安いからである。

すっかり酸化した階段の手すりに手をかける。
階段をのぼる私の足音だけが夜の町に響く。
時間はそろそろ日付が変わる時刻。新刊が多くて帰るのが遅くなってしまった。
鍵を鞄から取り出し、鍵を開け部屋に入る。

「ただいまー」
「おかえり」

…まさか返事が返ってくるとは思ってもいなかった。
というか、誰?まさかぼんやりし過ぎて部屋間違えた?
とりあえず外の表札を確認しよう。
そう思って背を向けた途端、後ろから誰かの手で口を塞がれた。

「ん〜!ん〜!!」
「ちょっとお前騒ぐなって。俺だよ」

私は塞いでいる手を無理矢理ひっぺがして声を出す。

「ディエゴさん!」

私の部屋にいたのは、競馬界の天才騎手、DIOさんの甥っ子のディエゴさんだった。
この前新聞でディエゴさんが海外で優勝したとか記事が出てたっけ。

「ようなまえ、久しぶり」
「お久しぶりです。いつ日本に?というかなんで私の部屋にいるんですか!」
「さっき杜王町に着いた。お前の部屋に俺がいて、何か困る事でもあるのか?」
「留守番しておいてやったぜ、みたいな顔してますけど、これ私が訴えたら勝訴できますからね」
「お前が?俺に?無駄だからやめとけ」

あぁ、ダメだこの人。俺様気質は何一つ変わってない。
仮に訴えたとしてもディエゴさんは難なく法律を曲げるだろう。
ディエゴさんは知った顔で玄関から居間に移動すると椅子に腰掛けた。
私も慌てて靴を脱ぎ後ろを追いかける。文句の一つでも言ってやろう。

「泥棒かと思って心臓縮まったんですからね!」
「こんな本しかない部屋、誰が好き好んで盗みに入るかよ」

わ、悪かったな本しかなくて!
…あとでDIOさんに言いつけてやる。
ビブリオマニアのDIOさんなら私に同調してくれるだろう。

「…で、部屋に電気も付けずにディエゴさんは何してたんですか?」
「なまえを驚かせようと思って待ってたんだ。でもあまりに遅いから寝てたらしい」

驚きましたとも、寿命が縮むくらいには。
ディエゴさんはこういうところが子供っぽい。

「今日は残業で…。すみませんでした。何か御用が?」
「お前に会いに来ただけだ」
「…へ?」

何かディエゴさんが言ったけど、小さくてよく聞き取れなかった。
すると唐突に箱を突き出された。なんだろ。

「これむこうの土産な。味は保証しないが」
「あ、お菓子!わーいありがとうございます!」

ディエゴさんはお土産を私に渡すとそのまま立ち上がった。

「あれ?もう帰っちゃうんですか?」
「なんだ、一緒に寝て欲しいならそう言えばいいだろ」

そう言って妖艶な微笑みを浮かべるディエゴさん。
この、競馬界のプレイボーイが!

「違います違います!お土産一緒に食べようと思っただけです!」
「…DIO達にも帰った事言わなきゃいけないから今日は帰るわ」
「まだ家帰ってなかったんですか?」
「先にこっち来たからな」

突然、ディエゴさんに強い力で手を引かれ、気付くと目の前に厚い胸板があった。

「あ、あの、ディエゴさん?」
「ただいま、なまえ」

そう言って腕に力を込めるディエゴさん。
全然私の話聞いてない。

…しょうがない、久しぶりに俺様の我侭に付き合ってあげるか。

ディエゴさんの背中に腕を回し、随分高い場所にある綺麗な顔を見ながら、

「おかえりなさい、ディエゴさん」

と、一言。
ディエゴさんはとても優しい目をして薄ら笑うのだった。




(でも、どうやって部屋入ったんですか?鍵かかってたのに)
(あんなちゃちな鍵、素人だって開けられるぜ)
(…引っ越そうかな)








(2011.9.2)
ディエゴがかわいいよー!
SBRのディエゴが可愛すぎて息がつまるー!




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