君は私の小さなライオン
その日、ま白いシーツの海で目を覚ました。
じめりとまとわりつくリネンは、普段であれば不快で仕方が無いけれど、今日ばかりはそんな些細なことはどうでも良かった。
レースのカーテンの隙間から日差しが差し込んで、部屋中がキラキラと眩しい。もう寝ていられないと起き上がって、床に散らばる服を一つずつ身に付ける。気がつけば、さっきまでグゥグゥと騒がしかった部屋が静かになっていた。
「……見てるでしょ。」
「見てるなぁ。」
「悪趣味」
「いやいや、それオレの特権だからさ」
「自分が脱がせた服を拾って着てる彼女っていいよな。」と、和泉三月は昨夜の名残りなど一切感じさせない様子でケロリと笑った。
あんなことをしておいて平気な顔で笑えるほど、私はまだこの男への耐性が付いていない。友達期間が長かったのだから、尚更気恥しいこちらの気持ちも汲んで欲しかった。きっとこの場で暑いのは自分だけだ。クーラーをつけるほどでもないから、腕を伸ばして窓を半分開ければ夜の余韻でまだ少しヒヤリとした空気が流れ込んでくる。
「……すげえ元気だな、外ラジオ体操してねえ?」
「隣の公園で小学生がしてるの、夏休みだから」
「もうそんな時期かー。」
「参加してくれば?混ざれるよきっと」
「どういう意味だよ?」
語尾を強めて、片方の眉を上げた三月が私を睨んで笑った。こうやって、だんだんと友達みたいな関係に戻るのだ。
「友達としてしか見られない」
そう言って、三月からの申し入れを、私は一度断った。だってそうでしょう。女より可愛くて、笑顔が眩しくて、華奢で小さくて、少し雑な言葉使いくらいしか、彼に男らしいところなんて感じたことがなかったのだから。まっすぐで真剣な瞳も、掴んだ手の力が強いことも、あの時初めて知った。
だから意識してしまえば、堕ちるのは一瞬で。
前髪の隙間から見える平らなおでこが可愛いと思っていたのに、その下の眉が意外に凛々しいだとか、ところどころ筋張った腕やら首筋は、今までどうして目に入らなかったのか、今となってはもう分からない。
「オレのこと、もう可愛いだけじゃなくなってんだろ?」
しばらくしてそう言った彼は、その言葉の割に今までで一番可愛い顔をして笑っていて、こんな風になる、その最後の一瞬まで、和泉三月は本当に狡かった。
「さすがに腹減ったな、なんか作るか」
そう言ってベッドから這い上がった彼は自分だけTシャツに下着を履いていた。そういうところが、抜かりがなくて、ずる賢い。
「…三月が作るの?」
「なんでもできるぜー、リクエストあるか?」
「んー……」
「まだ胃が起きてねえんじゃねえの?」
「見たらなんでも食べれる気がする…」
仕方ないというように首を横に倒して、未だにベッドに座り込む私を見下ろした。
「もうちょい動くか」
「は?」
ニヤリと笑って抱きすくめられるのと、私が逃げようと足に力を込めるのはほとんど同時だったのに、何故だかいとも簡単にベッドに縫い付けられてしまって、もう起き上がることなんて出来ない。
「あちぃ」
「それ私のTシャツ…」
「ぴったりなんだよ。後で拾う」
唇に噛みつかれながら、薄目を開けて彼を見る。その視界の片隅で、開け放たれた窓はしっかりと閉められた。