*****


「貴様らァァァ!!」


屋敷の障子戸が勢いよく開け放たれる。
大勢の門弟を従えた現当主、柳生輿矩が銀時と新八にむけて声高に言う。


「バカ騒ぎを止めろォ!!これ以上、柳生家の看板に泥を塗ることは許さん!!」


九兵衛の父親はこの状況がひどく不服でいるようだ。輿矩の号令により、門弟達が一斉に二人を捕らえるべく襲い掛かる。が、叫声をあげて倒れる仲間に一同は足を止める。


「邪魔をすんじゃねェェェ!!男と男…いや男と女…いや!侍の決闘を邪魔することはこの悟罹羅勲が許さん!!」


次々と門弟達を薙ぎ倒しながら猛進してくるのは近藤だ。


「旦那ァ!片足じゃもって五分でさァ!早いとこ片付けてくだせェ!!」

「なんで乗ってんだテメーは!!」


土方の肩に乗る沖田も、不本意に沖田を肩車する土方も門弟達を相手取る。


『千歳も手伝って…』

「えっ!?いや俺完全にこっち側で…」

『…でもめーんされそう』


頭を庇ってしゃがむ結城に前方がひらけ、弥生は彼を狙う男の鳩尾に鞘先を押し込む。手放された竹刀を結城は握ると弥生の背後に迫る仲間へと振るう。


「ふァちょォォ!!」


元気な声と悲鳴。そこでは神楽が見事な体術で数人蹴散らしていた。


「アネゴォォ!!男どもが頼りないから私と弥生が来たアルヨォ!!銀ちゃんおめっ、今までドコ行ってたアルかァ!?」

「チャイナぁ俺より目立つな!!それからお前んトコの大将ずっとウンコしてました!」

「何ィィ!?ウンコ!?てめっ、俺がどれだけ苦しい戦いしてたと思ってんだ!!」

「うるせェェ!!てめーんトコの大将もデケーのたれてたんだよ!」

「デカクねェ!見たのかお前!俺のウンコ見たのか!!」


周りの喧噪以上にやかましい口争い。それは彼女の身近にあったもの。
五月蝿くて落ち着きのない、けれど不思議と心地良い――そんな居場所。
込みあげてくる感情に胸がじわりと熱くなり


「…たい」


零れる涙と言葉は


「…私、みんなの所に帰りたい」


紛れもない、妙の胸奥の声であった。


*****


興奮状態のためか、同じ門下である結城にも容赦ない剣が振り下ろされる。純粋な力比べとなった鍔迫り合いに押され気味の最中、仲間の横っ面を叩く足が結城の救いとなった。


「お前私達に加勢していいアルか?チビ助の味方じゃないアルか?」


思わぬ人物の助け舟に唖然とする結城であったが、すぐに気を引きしめ応戦する。


「味方だからこそ、輿矩様に若様の勝負を妨げてほしくないんです」


弥生に流されるままではあったが、彼らの勝敗の行方を結城も見届けたかった。
それぞれが抱くものの強さを、この目で。


「そうか、ならばここは共同戦線といこう!あんまり無茶しねーで、俺達に背中あずけてくれていいからな!」


結城が背後を振り返ると、背を合わせて笑いかけてくる近藤がいた。ずいぶんと優しい声音と気遣いに結城の口元が引き攣る。


「てゆーか弥生ちゃんどこいってたの!急にいなくなったから心配したんだぞ!」


近藤の視線が、門弟を地に叩きつける弥生へと移る。彼の声に顔をあげた弥生は一瞬固まり、再び敵を薙いでいく。


『お皿とりいって…お茶のんだ』

「お前何しに来たんだよ!気ィ緩ィにもほどがあらァ!!」


上にいる沖田を巧妙に操る土方が、弥生の生ぬるさに一喝する。これに結城は慌てて口を入れる。


「いや、俺が弥生さんを引き止めてて…」

「するってェとアンタがパッツンの相手したんですかィ。当然勝ったよな?楽勝だったよな?天下の柳生がたかが小娘にやられるなんざ有り得ねーもんなァ」


耳から血が噴射しそうである。引き分けたとはいえ、柳生の面目を考えればけして満足できる結果ではない。その名の重さを今更実感し、色を失くした結城は無意識に弥生へ目をやるが


『私の勝ち』

「えええ!?」

「嘘言ってんな。だったら脳天に付けてた皿はどうしたんでィ」

『ちみこそお皿どした』

「俺が聞いてんだろ」

「弥生イジメちゃダメヨ。勝負はじまってすぐフルボッコにされて負けたなんて恥ずかしすぎるネ。そっとしとくアル。ププっ」

『ぷぷ』

「出鱈目言ってんじゃねーぞチャイナァァァ!!それおめーのことだろーがァァァ!!」

「私の皿はこの通り無事ネ。お前の敵を討ってやった恩を忘れたアルか?」

「なら今ここで御礼参りしてやるよ」


言うと沖田は土方の髪をわし掴み、神楽がいる方向へ引っ張る。余程腹立だしかったのか、その手には血管が浮き上がっていた。


「いででで!!てんめっ、落とすぞコラァ!!」

「え!?じゃあ何?総悟がやられたのって柳生の連中のせいじゃなかったの?」

「アイツに足折られなきゃ余裕でしたぜィ」

「チャイナ娘ェェ!!お前だったのか総悟をボコボコにしたのは!」

「だってソイツが私の手変なふうにしたからやり返しただけアル」

「仲間内で何やってんだよ…」

「全く、少しは俺達みたいに仲良くできなかったのか?なァ弥生ちゃん!」

『所詮、きのこ派とたけのこ派は相容れないのだよゴリさん』

「あれ?」


よく舌を噛まずにいられるなと結城は苦笑する。どうやら彼女達と彼らの仲は悪いらしい。だが反発し合いながらも、素早く動けない土方沖田の背中を弥生が、右腕を負傷した神楽の死角を近藤がカバーする姿に奇妙な関係性が窺える。柳生の名に集まった仲間よりずっと団結力があり、初めて目にする信頼の形であった。


「うおらァァァァァァァ!!」


―――雄叫び。
結城は視線を持ち上げる。そこでは空に舞う二本の木刀へ手を伸ばす四人がいた。
木刀を手にしたのは銀時と九兵衛。双方の大将は無防備という状況下。どちらが速く敵を斬るか迫られていた。
そして―――






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