「丸出しでいこうぜ!いつやられてもOKみたいなカンジで!!」

「OKじゃないっスよ!!一発KOですそんなトコ!ってか僕が大将!?」

「あたりめーだろ。不本意だが俺達ゃ一応恒道館の門弟って事になってんだ」


即ち、恒道館の主である新八が大将を担うのが妥当と土方は言うも、当人は不安な様子だ。


「心配いらんぞ、新八君は俺が命を張って護る!色々話したい事あるしな!ウチに住むか、俺がそっちに住むか…」

「すいません、誰か他の人にしてください!」

「んな事より、みなさんどこに皿つけるんでェ?これでけっこう生死が分かれるぜィ。
土方さんは負けるつもり一切ないんで眼球につけるらしいでさァ」

「オイ、眼球えぐり出されてーのかてめーは?」


近藤に倣って自分の皿を土方の左目に取り付ける沖田に続き、銀時も自分の皿を土方の右目に張り付ける。双眸に付けられた皿を外して憤慨する土方から、弥生は手に持つ小皿へ視線を移し、沖田の言葉を反芻した。
勝負の要となる皿。付けるとするなら、相手が討ちにくく、そして瞬時に守れる部位に付けるのが良策だろう。


「弥生はどこに皿つけるアルか?」


降ってきた声に顔を上げると、欄干に座る神楽が興味深げに青い瞳を向けている。数瞬の間神楽と見つめ合い、おもむろに皿を頭に乗せると両端に垂れる布を顎に縛る弥生はまるで河童だ。
しっかり固定出来た事に満足して神楽を見上げれば、何故だか不満そうに眉根を寄せている。


「え〜それだと頭カチ割られるネ。中身出ちゃうアルよ?脳みそはみ出た弥生なんて私嫌アル。どう接していいか分からなくなるヨ」

『大丈夫…このほうがお皿われない。頭もわれない…神楽もいつもみたいに接せる…やったね』

「んーでもちょっと不安アルから予行演習するネ。私をあのチビ助と思ってやるアルよ」


軽やかに着地した神楽は九兵衛に成り切る為か、皿を左目に装着し、差していた傘を畳んで刀のように構える。準備が整ったらしい神楽に弥生は欄干から背中を離して彼女と対峙する。
二人の間に流れる沈黙。
この時から少女達の目に映るのは、お互いの姿だけである。


「フ…よくここまで辿り着いたな」


ややあって、口火を切ったのは神楽だった。
不敵な笑みを見据える弥生の表情は、心なしか気迫に満ちているような。


「決着の時だ。僕が君を斬るが速いか、君が僕を斬るが速いか。
神速をうたわれる僕の剣に挑んでみるがいい!!」


言い終えると同時に神楽が跳び上がる。一直線に傘が狙うのは無論、弥生の頭にある皿だ。にも拘わらず、弥生は一向に腰のものを使おうとする素振りを見せない。丸腰のままでいる弥生に神楽の中で勝利を確信した時だった。

バシイイィィ!


「なん…だと…!?」


飛び込んできた光景に神楽は目を剥く。
なんと、振り下ろした傘を弥生は両手に挟んで受け止めたのだ。


『でやあー』

「ああっ!僕の得物が…!」


そして神楽の手から傘をむしり取り、自分の物にしたそれを神楽へ突き付け、形勢逆転を果たした。


『勝負あったね…さあ、おとなしくお皿をだしなされ』

「くっ…これまでか…」


膝をついてうなだれる神楽。弥生は傘を広げると落胆する神楽へ翳し、


『ね、われないでしょ』


皿を頭に付けても問題ない事を伝えると彼女は勢いよく顔を上げる。


「なるほど!その手があったアルか!今こそ真剣白刃取りの見せ所ネ!」

『負ける気がしないぜ』

「オイ何とか言ってやれよ。このままだとアイツ本気であのまま戦うつもりだぞ。ますます奴らにナメられんだろーが」


盛り上がる二人に目を向けたまま土方が新八に弥生の皿を付け直すよう求めてくる。
確かに、弥生の間抜けな姿を見て柳生が何か言ってくるのは間違いない。感性が鈍い弥生は平気だろうがこれはチーム戦だ。不快な物言いは全員にふりかかってくる。ただでさえ敵が同じという名目だけの不仲な集まりなのに、首の皮一枚の協調性が修復不可能になってしまう。そうなれば勝負に多大な影響が――最悪な事態を想像して焦った新八は弥生のもとへと一歩踏み出す。
そもそも、ツッコミ所は沢山あった。ありすぎてどこから手をつけたらいいのか困惑してしまったが、とりあえず見た目よりも何も頭部に皿は常識的に考えて危ないので注意することに。と、新八が声をかけるよりも先に土方で遊んでいたドSコンビが二人へ寄り口を開いた。






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