「近藤さん、心配いらねーよ」


依然降り続ける雨に構わず煙草に火をつけ、土方は紫煙を吐く。


「俺も我ァ通しに来ただけだ。
柳生には借りがある。そいつを返しに来ただけさ。ちなみに今日は仕事も休みだし、そこんとこも心配いらねェ」

「近藤さん」


次に口を開いた沖田は土方の真似なのか、小さい葉を煙草に見立てて息を吐くが、当然何も出ない。


「俺も我ァ通しに来ただけでさァ。
このままいけば、ゴリラを姐さんと呼ばなきゃいけなくなる。ちなみに今日はバリバリ仕事でしたが、サボってきました」

「オメーはホントに我だな!!」


どうやら沖田の問題はそこらしい。


「銀さん…」


彼らの会話に目を向けていた三人は、静かに声を発した新八の背中を見つめる。


「僕ねェ…もうシスコンと呼ばれてもいいです。
僕は姉上が大好きですよ。離れるのはイヤだ。できる事ならずっと一緒にいたいです。でもねェ…姉上が心底ほれて連れてきた男なら、たとえそれが万年金欠のうさん臭い男でも、ゴリラのストーカーでも、マヨラーでもドSでも、マダオでも痔でも、姉上が幸せになれるなら誰だって構やしないんです。送り出す覚悟はできてるんだ。泣きながら赤飯炊く覚悟はもうできてるんだ。
…僕は仕方ないでしょ、泣いても…そりゃ泣きますよ。でも、

泣いてる姉上を見送るなんてマネは、まっぴら御免こうむります。

僕は、姉上にはいつも笑っていてほしいんです。
それが姉弟でしょ」


涙ながらにたった一人の姉への想いを吐露する新八。
いつだって、誰よりも姉の幸せを思い、願ってきたのは彼なのだ。
彼の気持ちを、彼女にも知ってほしい。
抱える何かに突き動かされている彼女に。


「銀ちゃん、弥生、アネゴがホントにあのチビ助にほれてたらどうなるネ。私達、完全に悪役アル」

『神楽しらないの…けっこんに悪役という邪魔はつきものだよ』

「お前が結婚を語るな。ま、俺らは悪役にゃ慣れてるだろ。人の邪魔するのもな。
新八覚えとけよ、俺達ゃ正義の味方でも、てめーのネーちゃんの味方でもねェよ。
てめーの味方だ」


お妙のもとへ導くかのように、三人は先陣を切った。















食べ物の匂いがすると神楽が入っていった道場の中を銀時の背中越しから窺う。弥生の視界に四人の男と、何故か茶碗を頭にかぶった神楽が映った。


「オイチャイナ、股から卵たれてるぜィ。排卵日か?」


彼女の次に足を踏み入れた沖田がそう声をかけるが、下品な発言が不幸を招き、神楽に顔面をわし掴まれた彼は物の如く投げ飛ばされる。


「今のは総悟が悪い」


相応の報いのようだ。


「いってェ、何しやがん…」


身体を起こそうとする沖田だったが、頭にあてがわれる三つの切っ先に硬直する。


「いやァよく来てくれましたね、道場破りさん」


一人、刀を抜かずに穏やかな声音で銀時達を歓迎するのは長髪の男。


「天下の柳生流にたった七人で乗り込んでくるとは…いやはやたいした度胸。
しかし快進撃もこれまで」


感心は一変、敵意を孕ませた言葉に空気が張り詰める。


「我等、柳生家の守護を司る」

「北大路斎」

「南戸粋」

「西野掴」

「東城歩。
柳生四天王と対峙したからには、ここから生きて出られると思いますな」


各々名乗った男達は臨戦態勢であるが、御生憎様である。


「あん?てめーらみてーなモンに用はねーんだよ。大将出せコラ。
なんだてめーら?どこの100%だ?何100%だ?柳生100%かコノヤロー」

「アンタらのようなザコ、若に会わせられるわけねーだろ」


銀時に侮蔑を返したのは南戸粋と名乗った男だ。
派手な着流しに首飾りと、軟派な外見の男は沖田の首に刃を寄せて主導権がどちらにあるのかを知らしめる。


「俺達が剣を合わせるまでもねェ。オラッ、得物捨てな。人質が…」


南戸の要求通り、彼らは間髪入れずに武器を捨てる。否、人質ごと四天王を殺りにぶん投げられた刀や傘は五人が居た場所に深々と突き刺さった。


「ちょっ、何してんの!?」

「捨てろっていうから」

「どんな捨て方!?人質が見えねーのか!」

「残念ながらそいつに人質の価値はねェ」

『生かしとく優しさ…いらない』

「殺せヨ〜殺せヨ〜」

「てめーらあとで覚えてろィ」

「東城殿、こ奴らの始末、俺に…」

「やめろ」


鍔を弾き、抜刀する北大路を制した声は東城のものではない。


「それは僕の妻の親族だ。手荒なマネはよせ」


九兵衛である。
自らやって来た彼は七人と対面し、冷ややかな眼差しで新八を射抜く。


「まァゾロゾロと。新八君、君の姉への執着がここまで強いとは思わなかった」

「今日は弟としてではない。恒道館の主として来た」


それを真っ直ぐに受け止め、力を込めた双眸で九兵衛を見据える新八は強く言い放つ。


「志村妙は当道場の大切な門弟である。これをもらいたいのであれば、主である僕に話を通すのが筋」

「話?何の話だ」

「同じく剣を学び生きる身ならわかるだろう。侍は口で語るより、剣で語るが早い」

「剣に生き、剣に死ぬのが侍ってもんでさァ。ならば」

「女も剣で奪っていけよ」

『お妙がほしいなら』

「私達と勝負しろコノヤロー!!」


九兵衛が失笑を零す。明らかな嘲りを含んだものを。


「我が柳生流と君達のオンボロ道場で勝負になると思っているのか?」

「なりますよ〜坊ちゃま。
僕ら恒道館メンバーは、実はとっても仲が悪くて、プライベートとか一切つき合いなくて、お互いの事全然しらなくて、っていうかしりたくもねーし死ねばいいと思ってるんですけどもね〜、
お互い強いってことだけはしってるんですぅ〜」


挑発的な銀時の笑みと口調に、九兵衛もまた不敵の笑みを浮かべる。

今、闘いの火蓋が切られた。








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