窓から見える空は白く澱んでおり、しとしとと降りそそぐ雨音が耳朶に触れている。


「新八、今日も来ないネ」

「パシリのくせに無断欠勤たァ、クビにしてやろーか」


先刻から続くオセロの音に、視線を窓から盤面へ戻す。状況は変わらず白が優勢であった。
あれからも、新八は万事屋に顔を出していない。お妙の帰りを一日中待っているのだろうが、彼の姿が此処にないということはすなわち、未だ彼女が帰らないことも示唆していた。
手を動かしながら、名家である柳生家との結婚は好ましいという口ぶりで話す銀時。しかし、何故こんなにも気分が沈む一方なのか。


「銀ちゃん…私のマミー言ってたヨ。
結婚する、笑ってられるの最初のうちアル。鬼ババになることもアルネ。でも最期の時また笑えたらそれ上々の人生ネ。
アネゴ…笑って死ねるアルか」


休憩と呟いて席を立つ銀時の背中へ神楽が矢継ぎ早に言葉を投げる。
彼女は何か隠していると、何か無理していると。
神楽の勘に彼は「アホか」と返して続けた。


「んなモン、勘じゃなくても丸わかりだっつーの」


銀時の話に耳を傾けながら、神楽によって全て石が黒くなる盤面を弥生はぼんやり眺める。


「何考えてんのかわかんねーけどよ、あの女自分で選んで行ったんだろ。
だったら…笑うだろ、あの女なら」


いつになく弱々しい物言いである。一拍置いて舌打ちを零した銀時は小さく何かを呟くと、それが合図であるかのように弥生が立ち上がり、二本の刀を腰に差した。















一段一段上がる度、怒号が近付く。無駄に長い階段を上るのはこれで二回目になるが、前回同様軽く息が切れる。


「なんでお前らまでいるアルか」

「俺らがどこにいようがどうだっていいだろ」

「聞いて下せェよ旦那、コイツ今度は柳生のとこと喧嘩して負けたんですぜ。存分に笑ってやって下せェ。」

「負けてねェ。それから二人称気をつけろ」

「つーかよ、この前おめーらんとこの大将すげーデケーゴリラと見合いしてたぞ。何なの?またイメージアップとか狙ってんの?今度は笑いを取りたいの?キングオブコントに出場したかったの?」

「勘弁してほしいでさァ。俺ァ醜態晒して笑われんのはごめんです。他人の醜態見て笑う方が好きなんで」

「解ったか。俺らも柳生に色々用があんだよ」


階段下で鉢合わせた土方、沖田と共に眼前の乱闘へ参戦する。
銀時が視界を遮るようにして立つ男達を薙ぎ倒すと雨よけにかぶっていた笠を外し、柳生の門下に囲まれている二人のうち少年の方へ声をかけた。


「新八ぃ、今日から俺らも門下だ。なんだっけ?天然パーマ流?」


少年――新八は驚きつつも嬉しそうに三人の名を呼び、もう一人の人物である近藤も意外な仲間の姿に瞠目した。


*****


あまりにも唐突すぎて、結城は目まぐるしく動く周りについていけずにいた。
なんと、柳生に道場破りが現れたのだと聞く。
皆、天下の柳生流に剣を向ける賊を討ちに出払ったが、一人結城は色を失くして佇む。
この場合、門下である彼も敵を迎撃しなければならないのだが、激しい動機と震える身体が結城に拒絶を訴える。
主君が為、戦に赴き刀を振るうことが武士の本懐だとするならば、胸一杯に嫌悪を抱える少年は士道不覚悟と言える。結城自身も、それは自負していた。
ようやく一歩踏み出すまでに、どれぐらい時間が経ったかは知れない。
彼の手に木刀は無く、喧騒へ足を運ぶもその身は建物の影に隠す。そして結城の心臓は一度、大きく脈を打った。
大勢の仲間を、たった数人で圧倒する“敵”の中に、見覚えのある一人の少女の姿を目にして。


「(弥生さん!?なんで…)」


*****


「新八ぃ、てめェは減給だぜバカタレェ!!なんでこんなマネする前に俺に一言言わなかった!一人で煮つまりやがって!」

「そうアル!一人でこんな面白そうな事シコシコ計画して!一言声かけろヨ!お前はもう今日からシコッ八な!!」

『水くさいぞよ、しこっ八』


木刀、番傘、二刀を振り回しながら独断で柳生に喧嘩を吹っかけた新八へ三人が不満を吠えると、新八と一緒に行動を起こした近藤が代弁した。


「貴様らァ!新八君の気もしらんで勝手ぬかすなァ!!
新八君は貴様らを巻き込みたくなかったというのがわからんかァ!!」

「うるせーゴリラ、じゃあなんでお前は巻き込まれてんだよ!さてはてめーが新八たぶらかしたな!」

「こいつは俺達のエゴだからよ!!お妙さんは自ら望んでここへ嫁ごうとしている!理由はしらん!だが俺達はそれが気にくわん!
あんな顔でさよならなんて、できるわけもねェ!!
こんなマネしても誰も喜ぶ奴なんていないのかもしれん!お妙さんはこんな事、望んでないのかもしれん!
それでも自分の我を通したい奴だけここに来た!お妙さんにもう一度会いてェ奴だけここに来た!
大義もクソもない戦いに余計な奴巻き込むワケにはいかんだろ!
なのになんでお前らまで来るかなァァもォォォ!!」


最後のは土方、沖田の双方に向けてだ。
銀時らに敵わないと悟った門下生達は皆退散し、辺りは打って変わって静寂を取り戻していた。






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