『お登勢…ぎん達が行方不明…』
眠い目を擦りながらカウンターにいるお登勢へ三人の不在を言えば、タバコの煙を溜息と共に吐き、呆れた表情をみせた。
「アイツ等なら昨日腹こわして病院だよ。知らないってこたァ、アンタ昨日からずっと寝てたのかィ?」
『もち。…じゃあぎん達今日も帰ってこない…?』
「さあねェ…3、4日ぐらいで出てくるんじゃ…」
『きゃっほーい。誰にも邪魔されずに寝てられるじゃん。天国じゃん。パラダイスじゃん。寝るね』
「待ちな」
背を向ける弥生にすかさずお登勢は声をかけ、足を止めさせる。
「腐ってるもんに手ェつけたバカ共だけどねェ。少しは心配じゃないのかい」
『自業自得…』
「それ言っちゃァ終めーだよ。…ああ、そうだ弥生。ちょいとお使い頼まれてくれよ」
『ええー…』
「客にたくさん果物貰っちまってねェ。あたし一人じゃ食いきれねーからアイツ等ん所に届けてやってくれよ。それが終われば後は好き放題出来るだろ?」
『…………ん。分かった』
「じゃ、頼んだよ」
『じゃ、救急車呼んで…』
「タクシーじゃねーんだから呼べる訳ねーだろ」
当然、楽などできる訳もなく、自らの足で弥生は病院を目指す。 だが、こういうのも悪くない。多少の疲れはより睡眠を心地良くしてくれるもの。しかも、今日家には安眠妨害者はいないのだ。 まさに完璧な条件が整っている。表情に出ずとも、弥生の胸は喜びに満ちていた。その証拠に彼女の足取りは軽やかだ。
『コレ、お登勢に頼まれた…じゃ』
無事果物も届け終え、後は帰るという仕事のみ。訪れた病室を去ろうと一歩踏み出すが
「それはねーんじゃねェの?弥生ちゃーん」
銀時に腕を掴まれ、阻止された。
『…もう用は済んだよ』
「普通はな、腹の具合はどうだとか怪我の具合はどうだとか聞くもんなんだよ。それをおめー、見舞いの品置いてさようならはないだろ。ないよね普通。非常識にも程があるよ?積極的に交わそうぜ、コミュニケーション」
『達者で暮らせよ』
「怪我してる時点で達者じゃねーし。つか、さよならはねェっつってんだろコラ」
「弥生〜帰らないでヨ〜!一人は寂しいヨ、弥生もココに泊まるヨロシ!」
『さびしい…ワサビ的な何か?』
「んなボケ誰も必要としてねーんだよ。このまま楽に惰眠を取れると思うなよ。オイ、神楽」
「任せるネ」
『は〜な〜し〜て〜』
健康体だというのに怪我人の神楽にズルズル引っ張られ、ベッドに座らせる様を新八と長谷川は眺めていた。
「新八君。弥生ちゃん助けなくていいのか?めっちゃ帰りたそうだけど」
「あれが弥生ちゃんの為なんです。時に人は鬼にも松岡修造にもなって人を育てるもんです」
「熱苦しいの嫌いなんじゃない?弥生ちゃん」
「やめんか貴様らァァ!」
怒鳴り声は隣のベッドから。 そこには銀時達と同様、ガーゼや包帯を当てた桂が居た。
「弥生が嫌がっているではないかっ!それを貴様はァァ!」
「うるさい黙ってろ二度と口開かないで」
『ヅラいたんだ…気付かなかった』
「ヅラじゃない桂だ。銀時達にフルボッコにされてな」
「フルボッコにされたのは俺達だっつーの。誰のせいで入院のびたと思ってんだ」
『入院のびたの…へー…』
「嬉しそーな顔すんじゃねェ」
つい綻んでしまった頬を銀時に摘まれ、引っ張られる。
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