新八と神楽のもとに帰ってきた時は、もう空には星が散りばめられていた。 体力も眠気もピークに達した弥生は、着くなりその場へ倒れ込む。
「おゥ、帰ったかマカロン刑事」
「自分以外は食い物なんだね、山さん」
『なんか…食べ物…』
「あんぱんあるよ?食べる?」
「パスタ、マカロンにあんぱん詰めてやれ」
「はい、山さん」
口を開けて待つ弥生にあんぱんを入れてやる。もくもくと口を動かす姿を確認すると神楽は任務に取り掛かった。
「よし。マカロンの胃もあんぱんで敷き詰めたとこで張り込み再開だ。パスタ、マカロン 俺の背中は頼むぞ」
「ハイ、山さん」
「スイマセン、背中ががら空きですが」
突然、背後からの道信の声に弥生以外は驚愕する。神楽に至っては食べていたあんぱんを詰まらせる始末。 ふと、視線を移す。そこには馬車が置いてあり、荷台には子供達が乗り込む姿が。
「このまま江戸を出るつもりです。君たちがどういうつもりで私を張っていたかは知りませんが、見逃してほしい。…勝手なのはわかっています。今まで散々人を殺めてきた私が……でも、もうこれ以上殺しはしたくない。何年かかるかわからない。でも、あの子たちに胸をはって、父親だと言える男になりたい…」
「……道信さん」
『!』
「しッ!!」
長居できる暇はなかった。現れた煉獄関の連中に、四人は身を潜める。
「…早く行くヨロシ」
「!」
「…ウチのボスは目的も何も告げずに、ただアナタを見張っとけって…全く何考えてんだか。だから僕らも好きにやります。何が正しくて何が間違ってるのかなんてわかんないけど、銀さんならきっとこうすると思うから…」
『傍にいてあげなよ…』
子供達のいる馬車へ目配せする。 察したのか、弥生に頷くと一言謝罪し、道信は馬車の手綱を引いた。 道信の逃亡に気付いた煉獄関の連中を足止めするのが
「行くぞォォ、パスタァァ、マカロンンン!!」
「おう、山さん!!」
『おーう』
刑事三人の仕事だった。
沖田の持ってきた話は、寝覚の悪い話だった。 沈黙を埋める雨音も、気分を沈ませる他ない。
『………』
「ゴメン、銀ちゃん」
「僕らが最後まで見とどけていれば…」
「オメーらのせいじゃねーよ。野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい、覚悟してたさ」
そう銀時は言うが、腑に落ちない。胸を占める喪失感に苛まれるばかりだった。
「!テメーら、ココには来るなって言ったろィ?」
沖田の言葉に伏せていた顔をあげると、居間の入口に子供達の姿があった。そして泣きながら銀時に依頼を申し込んだ。 先生の敵を討ってくれ、と。 おそらく、子供達の中で一番幼いだろう男の子が、銀時の机に一枚のシールを差し出す。
「コレ…僕の宝物なんだ」
「お金はないけど…みんなの宝物あげるから」
「だからお願い、お兄ちゃん」
子供達は知っていた。 自分達と遊んで養ってくれる裏で、血に染まっていた道信を。 それでも、子供達にとっては大好きな、立派な父親なのだと。
「オイ、ガキ!」
「!」
「コレ、今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そーだよ、レアモノだよ。何で兄ちゃん知ってるの?」
「何でってオメー、俺も集めてんだ…ドッキリマンシール。コイツのためなら何でもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
戸惑う沖田と神楽に構わず、銀時は足を運ぶが
「酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな」
いつから居たのか、出口を塞ぐようにして土方が戸に寄り掛かっていた。
「小物が一人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…死ぬぜ」
「オイオイ何だ、どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって。テメーらにゃ迷惑かけねーよ、どけ」
「別にテメーが死のうが構わんが、ただげせねー。わざわざ死にに行くってのか?」
「行かなくても俺ァ死ぬんだよ。俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつァ見えねーが、確かに俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺の中に存在する。 そいつがあるから俺ァまっすぐ立っていられる。フラフラしてもまっすぐ歩いていける。 ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ。 魂が、折れちまうんだよ。 心臓が止まることより、俺にしたらそっちの方が一大事でね。こいつァ老いぼれて腰が曲がってもまっすぐじゃなきゃいけねー」
「…己の美学のために死ぬってか?…とんだロマンティズムだ」
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