「おゥ、奇遇ですねィ。運命感じまさァ」
『……どなた?』
甘味屋で団子を食す弥生に声をかけたのは沖田だった。いつもの真選組の黒い制服ではなく、着流しだ。
「真選組一番隊隊長、沖田総悟でィ。そのツルッツルの脳みそにしっかり俺の焼き印押しとけィ」
今更ながらの自己紹介を終えると弥生の隣りに座り、皿にあった最後の一本を口にした。
「暇そうだねィ。これから面白ェもん見に行くんだが、どうだィ一緒に」
『暇じゃないです。これから帰って寝るんで』
「んじゃあさっさと行きやすぜ。じゃねーと席がなくなっちまう」
『さようなら。んじゃあ私も帰るんで』
「違いまさァ、そっちじゃなくてこっちでィ。そんな急がずとも俺がちゃんと案内すらァ」
万事屋へ向かおうとする弥生の襟首を掴むと、そのまま沖田は逆方向へ歩き出す。 行かないと言う弥生の言葉を完全無視し、沖田が向かった場所は
《赤コーナー!主婦業に嫌気がさし〜結婚生活を捨て、戦場に居場所を見つけた女〜鬼子母神、春菜ァァ!! 青コーナー!人気アイドルからスキャンダルを経て殴り屋に転身!「でも私!歌うことは止めません!!」 闘う歌姫!ダイナマイトお通ぅぅぅ!!》
そう、闘技場。リングにはギターを鳴らすお通がいる。 熱く語るアナウンス。盛り上がる観客席、歓声。 全てが最悪だった。
『帰る…』
「おいおい、んな萎える事言うんじゃねェ。まだ始まったばかりだぜィ。こっからが面白ェんでィ」
『ここ、うるさい…うるさいトコ嫌い』
「そうだと思ったから誘ったんでさァ」
沖田の言葉に首を動かせば、嫌味以外の何物でもない笑顔があった。 帰りたくとも、服を掴まれて阻止されている為、仕方なく耳を塞いで音を和らげようとするが
ガチャン
「ダメだぜィ。耳塞いでちゃ女共の不満の声が聞けねーや」
後ろ手に手錠をかけられ、叶わなかった。 もうそのまま寝る事を決め、瞼を閉じるが
「寝たらその目にワサビとカラシのミックスぶち込みまさァ」
懐からその二つのチューブをちらつかせ、ニタリと笑む沖田。 弥生の最大の天敵が出現した瞬間だった。
「えー夢とはいかなるものか。持っていても辛いし、無くても悲しい。しかし、そんな茨の道さえ己の拳で切り開こうとするお前の姿…感動したぞォォ!!」
ものすごく聞き覚えのありすぎる声にリングへ目を向けると、お通に代わって神楽が春菜と取っ組み合いをしていた。
「何やってんだァァひっこめェェチャイナ娘ェ!!目ェ潰せ、目ェ潰せ! 春菜ァァ!何やってんだァ、何のために主婦やめたんだ!刺激が欲しかったんじゃないの!?」
神楽がいる。その程度に思う弥生の横では沖田がリングへ叫んでいる。 一方的に神楽が春菜をボコボコにしている様を眺めていると
「弥生、お前 うるさいからいや。とかっつって行かないって言ってなかったっけ?」
やはりというべきか、銀時と新八もこの闘技場に来ていた。
「いやー奇遇ですねィ。今日はオフでやることもねーし、大好きな格闘技をパッツンと一緒に見に来てたんでさァ」
「いやいや、何で君ら一緒にいんの?接点が全く見えねーんだけど」
「実は僕達、付き合ってるんです。お父さん」
「誰がお父さんだ!大体、彼女に手錠つける彼氏がどこにいんだよお父さん認めませんんん!!」
「いや、いつからアンタが弥生ちゃんの父親になったんスか」
「そーヨそーヨ!弥生がお前のものなワケないネ!弥生の頭ん中は寝る事でいっぱいアル!お前が入り込む隙間なんてミジンコ程もナイネ!」
「全くだ。だからその肩に手を置くのをやめなさい。周りから見たら君ら本当にカップルのようだからやめなさい」
「恋人同志なんでこのぐらいのスキンシップは当然でさァ。なァ、弥生?」
「ウチの娘を呼び捨てるなァァァ!!」
「だからいつアンタが父親になったんだァァァ!!」
弥生の肩を抱き寄せれば、面白いぐらい反応を見せる銀時に沖田は口端を吊り上げる。 性ゆえに、人をからかうのが楽しくて仕方ないのだ。
『…ね、もう取って』
「もちっとそうしてろィ。あ、あとこの首輪もつけてやらァ」
『やだ。取って』
「彼氏の言う事が聞けねーのかィ?」
『彼氏じゃない…近い』
艶みの帯びた声色で沖田は言うと、弥生の顎を持ち上げ顔を近づけるが、迷惑そうに弥生は顔を歪める。嫌だ、という意思表示なのだが、どうやら沖田を喜ばせているだけだった。
「いい加減にしろォォ!!ウチの弥生で遊ぶなァァ!!」
見兼ねた銀時は沖田から弥生をはがすと、残念そうに沖田は舌を打つ。そしてようやく手首を解放してくれた。 銀時達が話す中、弥生はずっと眉間にシワを寄せ、手首をさすっていた。 睡眠を邪魔される事は多々あるが、あんな悪意に満ちた邪魔され方は初めてだった。 自分一人の時は関わらないようにしよう。そう決めた。
「それより旦那方、暇ならちょいとつき合いませんか? もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」
「面白い見せ物?」
「まァ、付いてくらァわかりまさァ」
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