「その通りですよ。さァ、帰りましょう」


彼女に答えたのは目の前にやって来た土方だった。何も言わず、従う少女の腕を神楽は掴む。


「何してんだテメー」


神楽は笑った。そして口にくわえていた串を土方へ吹き放つと、今度は空いている少女の片腕を弥生が掴み、三人は土方から逃げる。


「確保!!」


叫ぶと前から隊士が現れ、行く手を遮られる。
神楽は傘、弥生は刀で彼らを振り払うとパトカーを土台に屋根へ飛びあがり、別の建物に移るとタンクの影へ逃げ込む。


「チャイナ娘に惰眠娘、出てこい!!お前等がどうやってそよ様と知りあったかは知らんが、そのお方はこの国の大切な人だ、これ以上俺達の邪魔をするならお前等もしょっぴくぞ!聞いてるか!」

『…神楽、次どこ行くの』

「そうアルな…あ、万事屋に行くネ!私達の仕事場所教えてあげるアル!」


追われるという緊迫感など微塵も感じさせない呑気な会話を交わす二人。だが、そよは不安げに真選組がいる方へ目を向けている。


「…女王サン、お姉サン。もういいです、私帰ります」

「なんで?自由になりたくないアルか?
私、自由にしてあげるヨ」

「自由にはなりたいけれど…これ以上女王サンとお姉サンに迷惑は…」

「迷惑違うヨ。約束したアル、今日一日友達って
友達助けるに理由いらないネ。それが江戸っ子の心意気アル。まだまだ一杯、楽しいこと教えてあげるヨ」


そよは、頷かなかった。おもむろに立ち上がり、口を開く。


「そう、私達友達です
でも、だからこそ迷惑かけたくないんです。
ホントにありがとうございました、女王サン、お姉サン。たった半日だったけれど、普通の女の子になれたみたいでとても楽しかった」


頭を下げると、真選組の方へ戻る。その姿を黙って見送る弥生とは反対に、神楽は縋るように腰をあげるとそよへ声をかける。


「待つネ!ズルイヨ!自分から約束しといて勝手に破るアルか!私もっと遊びたいヨ!そよちゃんともっと仲良くなりたい!ズルイヨ!」

「そーです、私ズルイんです。だから最後にもういっこズルさせてください。一日なんて言ったけど、ずっと友達でいてね」


振り返ったそよの目には涙が浮かんでいた。
――別れたくない。
その気持ちは、そよも一緒だった。


『そよ』


弥生の声にそよは足を止める。振り返って見たのは、相変わらず眠そうな顔。


『またブランコにでも乗ってなよ』


その言葉に、そよは目を見開く。


『歌舞伎町の女王サマがすぐに飛んでいくって…』

「弥生…」

「――、フフ…お姉サンも、ですか?」

『女王サマの付き人だから…』


じゃあね。と手を振る弥生にそよも笑顔で返すと屋根から降りていった。上からそよが乗ったパトカーを見送り、腰にしがみついている神楽の頭を撫でる。


『…また会えるよ』

「…ウン」

『…泣いてるの』

「…泣いてないネ。」


顔をあげて笑顔をみせる神楽。うっすらと涙の跡が見えたが、弥生は何も言わず帰ろう、と万事屋へ足を向けた。










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