「おまっ…お前何さらしてくれとんじゃァァ!!」

「下らない冗談嫌いネ」

「てめェ故郷に帰りたいって言ってたろーが!!この際強制送還でもいいだろ!!」

「そんな不名誉な帰国御免こうむるネ。いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来る時も成功した。なんとかなるネ」

「不名誉どころかお前ただの犯罪者じゃねーか!!」

『ぎん…うるさい』

「うるせーじゃねーよ!見ろこの指!第一関節がえらいコトになってんだぞ!」

『もどせば治るよ…』


不自然に反れている銀時の指を弥生はぎゅっと握って直線に復する。


「ぎいやァァァ!!なっ…何すんだお前ェェ!!こんなんで治ったら医者いらねーんだよォ!!」

『うるさいよー…』

「オイ弥生が困ってるアル。骨折れたぐらいでギャーギャー騒ぐなよ天パ」

「キャ…キャサリン!!」


驚愕の声を上げるお登勢に互いの顔から目を移す。様子がおかしい彼女のもとへ足を運ぶ銀時と神楽の背中を見送り、弥生はカウンターに置く枕を引き寄せようと手を伸ばすが馴染みの感触は得られず、店内を隅々まで見渡してもその姿は視認出来なかった。


「お登勢さん!店の金レジごとなくなってますよ!!」

「あれ、俺の原チャリもねーじゃねーか」

「あ…そういえば私の傘もないヨ」

『まくら…ない』


三対の視線は「バーカ」と吐き捨ててスクーターを走らせていくキャサリンへ。


「あんのブス女ァァァァァ!!」

「血祭りじゃァァァ!!」

『地獄見してやらァァァァ!!』



全てキャサリンの仕業と悟った三人は己の物を奪還すべく、役人の車に乗り込む。持ち主が何か言っているようだが、聞く耳を持たない彼らは構うことなく車を発進させた。


「ねェ!とりあえずおちつこうよ三人とも!僕らの出る幕じゃないですってコレ!たかが原チャリや傘や枕でそんなムキにならんでもいいでしょ!」

「新八、俺ぁ原チャリなんてホントはどーでもいいんだ」

「!」

「そんなことよりなァ、シートに昨日借りたビデオ入れっぱなしなんだ。このままじゃ延滞料金がとんでもない事になる。どうしよう」

「アンタの行く末がどうしようだよ!!」

「延滞料金なんて心配いらないネ。もうすぐレジの金がまるまる手に入るんだから」

「お前はそのキレイな瞳のどこに汚い心隠してんだ!!」

「弥生の枕もその金で買ってあげるヨ」

『いや、私あの枕じゃないとダメなんだよね。アレが一番頭にしっくりくるんだよ。何としてでも奪い返してやる』

「ちょっとォォ!この娘誰ェェ!?僕の知ってる弥生ちゃんじゃないんだけどォ!?何?何なのその枕に対する異様な執着は!」

『新八にだってあるでしょ、命の次に大切なものってのが』

「考え直せェェェ!!尊いもんはもっと他にあんだろーがっ!
そもそも神楽ちゃん免許持ってんの!なんか普通に運転してるけど!」

「人はねるのに免許なんて必要ないアル」

「オイぃぃぃ!!ぶつけるつもりかァァ!!」

『やれ神楽。宇宙の果てまで飛んでくぐらい』

「OK、任せろ」

「お前ら勘弁しろよ。ビデオ粉々になるだろーが」

「ビデオから頭離せ!!」


ようやく車はキャサリンの後ろにつく。しかし追っ手に気付いたキャサリンは狭い路地へ入っていく。


「ほァちゃああああ!!」


負けじと神楽も左折するが車が通れる道幅ではなかった。両端に建つ家屋を破壊しながら突き進む車体は上下に激しく跳ね上がる。


「オイオイオイオイ!!」

「なんかもうキャサリンより悪い事してんじゃないの僕ら!!」


器物破損罪がちらつく彼らの脳裏など知る由もない神楽は更にアクセルを踏み締める。衝突までいよいよ秒読みとなった瞬間、路地を抜けた車は道を走ることもキャサリンを撥ねることもなく宙に浮き、


『「「「あれ?』」」」


車線を外した車は川の中へと落下した。


「ちくしょーあともうちょっとだったのに」

「どうしてくれんだお前、これからの俺の人生に延滞料金の支払いがついて回る羽目になっちまったじゃねーか」

「そうじゃねーだろ!おめーらこのままだと車もろとも沈められるの分かってんのか!!」


弥生はガラス窓に手をついて外を窺い、キャサリンの姿を視界に捉える。そしてキャサリンの行く手を塞ぐようにして佇むお登勢の姿も見受けられた。


『しゃがんで』


まだ間に合う。
水が侵入し、水圧で開かないドアに混乱する車内へ弥生は告げると、手にした刀を横薙ぎに振るう。天井を神楽が蹴り上げれば車から屋根が消え去り、脱出口が出来上がった。
ひらけた視界には橋の上で向かい合うお登勢とキャサリンを映し出す。その光景を目にした銀時がいの一番に車から離脱し、お登勢に迫るキャサリンの脳天へ一撃を叩き入れたのだった。








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