「ひっ……マ、マルコ隊長っ!」

 新参者に悲鳴をあげられるほどおれは恐怖の対象だったのかと一瞬落ち込んだが、無意識に自身の眉間に皴が寄っていたことに気がつき「いや、違う」なんて弁明をしようとした。――が、どうやらそれは遅かったようで、そいつは大慌てで立ち上がると「すみませんでした!」と謝りながら船首の方へ逃げるよう駆けていった。そう、文字通り逃げたのだ。
 取り残された現場にはおれと、無防備にも素足を晒しながら居眠りをしている惚れた女の二名。勝手に出た溜息の原因なんて多すぎて最早考えることは放棄した。さっさと自室からブランケットを持ってきて、その白い健康的な足元を隠す。
 日頃からおれを好きだと言う彼女との付き合いももう長い。なんだったら惚れたのはおれが最初だろう。熱烈なアプローチをされるのは純粋に嬉しいし、それに応えるのなんて造作もないことだ。ただ、あまりにも必死な彼女の可愛い様子を面白がって泳がせてしまった――それがいけなかったと今では反省してる。
 早い話がタイミングを失って今に至る。仲間からは「さっさとくっつけよ面倒くせェ」などと言われる始末。そりゃ、おれだってこれが他人のことならそう言ってるに違いない。想いあってる奴らが付き合いもせずあーだこーだやってるのなんて、傍から見りゃウザったいことこのうえないだろう。あぁそうだよ、おれが悪いんだよい。
 逃げていったクルーがさっきまで座っていた彼女の横に腰を下ろしそっと肩を抱く。ここ最近若い男どもが一気にウチに入ったせいか、本格的にこいつとの距離の縮め方を考え直していた。あんな無意識のうちに嫉妬するくらいなら――。
 そんなとき「なァんだ、そういうことか」と、全てを悟ったかのような顔をしたサッチに嫌な笑みを浮かべられた。面倒くせェやつに見つかった。

「うるせェよい」
「あいつ、顔真っ青にしてこっち走ってくるからよ〜」
「言い過ぎだろい」
「ったく。新しい連中にまで気ィ遣わせんなよな」

 腹立たしいがこいつの言ってることは至極真っ当で、正直ぐうの音もでない。黙り込んだおれの反応を面白がって揶揄ってくるサッチに何か言い返そうと思った矢先「んん……」という小さな声が聞こえておれもサッチもピタリと動きを止める。
 小さな動物が飼い主に甘えるかのようにすり寄ってくる仕草を見て愛おしいと思わないはずがない。口パクで何かを訴えかけてくるサッチをしっしっと片手であしらいながら、今更どうぶっちゃけてしまおうか頭の片隅で画策しながら「やっと起きたか」なんてカッコつけながら口にした。

BACK