コンタクトなんて危険です
「コンタクトは危険なんだよ、分かっているのかい?立花君」
「あの、藤田サン…」
「キミの柔らかい眼球と角膜が大変なことになるかもしれないのだよ」
「あの、だから、耳元で囁くのはやめて下さいって」
「ほう、感じやすいのかい?」
「いや、あの、そうではなくてですね…」
ああ、視線が痛い。
いま隣にいるこの変態と、自分に向かってくる視線が痛い。ビシビシと突き刺さる無数の視線。
時は夕方。
場所は通勤帰りのサラリーマンや下校途中の学生達で賑わう、駅近くのコンビニエンスストアのレジの中。
図体のデカイ男がふたり。片方が口元を耳に寄せて、もう片方は困ったように赤い顔をして。
一体何をしているんだ俺達は!!
「異物を目の中に入れるとは、立花君は痛いことが好きなのかい?」
「これはコンタクトですから。慣れれば痛くないし」
「何を言ってるんだ立花君。目の中に入れても痛くないのは、この世の中、子供と孫だと相場は決まっているのだよ。でもね、実際に目の中に子供や孫を入れる人間がいるかい?否、いない(反語)だろうね」
「コンタクトと子供を一緒にしないで下さいよ」
「いや、俺にとっては同じだよ。どちらも目の中に入れてはいけないものなんだよ」
ああ、神様。話が通じません。
世の中に変態という存在がいることは知っていましたが、こんなすぐ傍に、しかも隣にいようとは。
最近、きれいな顔をした変態と勤務シフトが同じなんですが。俺の気のせいでしょうか?
サラサラの黒髪に黒目がちな瞳。小さな顔にはお洒落な眼鏡。スラリとした体つきに少しだけ低めの声。
黙っていれば素敵だともっぱらな噂の人物は、やはり中身が残念なことになっているようです。
「立花君、今すぐコンタクトはやめて眼鏡にしなさい」
「何で上から目線なんですか!! 俺達、確か同い年でしたよね?」
俺の言葉にこのきれいで変態な人は、自分の口元に細い指先を置いて暫く考えるような仕草をした後、小首を傾げて言い放った。
「これが俺の個性だから?」
「うわ、ムカつく!!その疑問系な話し方」
ちょっと可愛い仕草だな〜なんて思ってしまった自分にもムカつく。
◇◆◆
図体のデカイ男がふたり。
お客様そっちのけで、楽しげでよろしいことですねぇ〜。
お客様から突き刺さる視線も、目の中のコンタクトも、立花君にとっては痛いものではないのでしょうね。
藤田サンは言わぬもがなですが…。本当に困ったものです。
えっ!?
いま話している私は一体誰かって?
デカイ声でじゃれあっているいい年した大人達の後ろから、そろりそろりと近づく影ですよ。
世間では店長とか、オーナーとか呼ばれていますが…
何か?
やはり、コンタクトは別の意味でも危険なんですねぇ。
ああ、立花君(と藤田サン)の明日はどっちだ!?
「向こうの方かな?立花君」
「そっちは店の出口です!」
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