遊んでやるんだ、有り難く思え


 今日は雨降り。

 やたら寒い日が続いて、俺としても好奇心の虫が退屈しっぱなしなのは困るわけで。
 何か面白いことはないかと尻尾を横にフリフリ。


 今日は珍しくヨシアキが家にいる。休みってヤツらしい。
 ベッドでゴロゴロしながら、雑誌を読んだりスマホをいじったり。何が面白いのかたま〜に、にやついていたり。
 そんな様子を横目に俺はそんなに広くもない部屋を縦横無尽に駆け回る。


 え?
 怒られないのかって?
 大丈夫。
 今日はカオルがいないんだ。


 「実家」というところにどうしても行かなくちゃならない用事があって、朝早くから出掛けてしまったのだ。
 お陰で少しばかり淋しいんだけどね。
 部屋のあちこちを覗き見て、ティッシュペーパーを引っ張り出したり、ドアを開けまくってみたり…色々とやれることはやってみたもののやっぱり飽きてしまった俺は、仕方なくベッドの上に飛び乗った。


「うおっ、なんだよシラス、びっくりしたな〜」
「ヨシアキ、何見てんだ?」
「お前が車見ても分からんだろうが」


 ヨシアキの手元にある雑誌には車の写真がずらりと並んでいた。


「カッコいいだろう」
「?」
「車にはあんまりいい思い出ないだろ、病院行ったり、引越で無理矢理乗せられたりしたもんな」


 病院と聞いて体がビクリと反応してしまう。
 そんな俺の背中をヨシアキは優しく撫で回してくる。


「カオルがいないとつまんないよな、なんかして遊ぶか」
「遊ぶのか? 何する? 何する?」


 俺はベッドから飛び降りると、お気に入りのオモチャを宝箱の中から取りだしヨシアキに渡した。
 それは噛みつくとキューッと音の鳴るネズミのオモチャだ。


「お前、これ好きだよな」
「うん、これで遊ぼう」
「よしよし、じゃまずはこれをここに提げて…」


 ヨシアキはベッドから降りると、隣の部屋から洗濯物を干す用のハサミを持ってきた。
 それにネズミを挟むと、天井から下がっている照明のヒモに結びつけた。


「少しずつ高くしていくからな」
「うん」


 この遊びは俺が何処までジャンプ出来るかを競う遊び。
 ジャンプしてネズミを叩き落とすというだけの単純さなんだが、跳んでいるうちに徐々に興奮してきて楽しくなってくるのだ。


「まずは1メートル、楽勝だろ」


 目標のネズミを見据えて、その場でぐるぐると回り、タイミングを見てジャンプ。
 伸び上がる体が楽々と目標物に到達して、右手でパチンとはたき落とす。
 その瞬間、ネズミは力なくキューッと鳴き声を上げる。それが楽しくてさらに高い目標を作ってもらう為にヨシアキにネズミを手渡す。
 ヨシアキはヒモの長さを調節してネズミの位置はさらに高くなる。
 またジャンプ。はたき落として、またさらに高く。ジャンプ。またまたさらに高く。


「すっげぇ、シラス。さすが猫だな」


 そんなことを繰り返していくうちに段々興奮してきた俺は、知らぬ間にフウフウと鳴き声を上げ、ヨシアキも興奮して、すげぇすげぇと雄叫びを上げて…。
 ドンドンと跳ね回る音と、ネズミを落とす度に上がる奇声とがかなり大きくなっていたらしく。
 気づけばいつの間に帰宅していたカオルに、ふたり正座姿で近所迷惑だとお説教を食らう羽目になっていた。


「俺は悪くない、ヨシアキがどんどん高くするから」
「シラスが凄いからさぁ〜、ついつい」
「あ〜あ、折角おみやげ買ってきたのにな」


 おみやげのひと言に、俺とヨシアキは改まってカオルに頭を下げて許しを乞うてみせた。


 本当に反省しているかどうかって?
 俺はしてるよ。ヨシアキはどうだかね。
 だってさ、さっきからご飯の用意をしてるカオルの後ろにべったりだもの。
 それにカオルもカオルだよ。


 仲が良いのはいいとしてさ、幾ら待っても俺のご飯が出てこないのは、一体どういうことなんだろうね。
 全く、ため息が出るよ。

【fin】


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