短文描写 4
65文字/40題
やわらかさ/痛み/好き/今昔/渇き/浪漫/季節/別れ/欲/贈り物…
31 やわらかさ
突き刺さるのは言葉。
視線。
君の口元、その動き。
気配だけで殺されそうになる。
僕たちはなんて柔で、弱いもので出来ているのだろうか。
32 痛み
項垂れる君の背中を見つめながら、些細な言い争いを後悔する。
君がいるから喧嘩も出来る。
笑いも出来る。
今更気づくそんなこと。
バカだよな。
33 好き
スーパーで買い物カートを押しながら棚の商品を放り込んでいく。
食事当番は面倒臭いと思いながら気付けば君の好物ばかり。
独りで苦笑してしまう。
34 今昔
隣を歩く君を見上げて、目尻のシワとか少し弛んだ皮膚だとかそんなものに気づく。
時間は流れていくというけれど、本当に流れていくのは僕らだ。
35 渇き
お花見当日、大雨に降られて、手作りの弁当もこだわりの珈琲も家で口にすることになった。
桜は咲く為に雨を呼ぶという。僕も君に手を伸ばす。
36 浪漫
寝相の悪さや片付けられない処や不機嫌だと黙り込む癖や、君の少し困った性格はお互い様のことで、それよりも毎日一緒にいられることが奇跡。
37 季節
季節毎に届く実家からの段ボールには子供の頃好きだったお菓子が。
未だに子供扱いだと嘆く君は気づかない。当たり前に届くそれこそが愛だと。
38 別れ
握手を交わした掌の温もりが消えていく。頭を下げて笑顔で手を振る3月4月。
毎年の人事異動に辟易しながらこれも出会いの儀式と心を切り替える。
39 欲
疲れた顔をしてスーツを脱ぎ捨てる君の後ろ姿に伸ばしかけた手を引っ込める。明日は休日だってのに。
ベッドに沈み込む背中に指を滑らせた。
40 贈り物
帰宅途中の道から部屋の灯りが見えると少しだけ歩きが速くなる。
君の「お帰りなさい」が毎日聞ける贅沢を覚えてしまった馬鹿野郎だ、自分は。
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