SWEET×SWEET=WHITEDAY
日本のイベント事は忙しい。
いつも必ず季節毎のイベントがあって、それは日本古来の伝統行事であったり、外国から伝わったものであったり…日本人のお祭り気質がそうさせるのか、宗教も文化も歴史的背景も、何でもかんでも受け入れて楽しんでいるかのように思える時がある。
立花は独り考えながらも、美しくラッピングされた箱を棚に並べていく。
もうすぐ訪れるホワイトデーなんて、自分には全く関係ないイベントだ。そう思いながらも、レジカウンター内で忙しそうにタバコの補充をしている藤田にチラリと視線を投げてしまう。
チョコレートなんてあの人がくれるわけでもなく、2月の淡い期待は儚くも消えていった。
自分からあげようかとも思ったが、気恥ずかしくて買うことが出来なかった。
コンビニの棚に並んだチョコレートを買っていく女性を横目に、何度も何度も小さくため息をついて、藤田に具合でも悪いのかと言われて、ガックリと肩を落としたのもつい昨日のことのようだ。
「立花君、このカラフルなものは一体何なんだい?」
いつの間にやらそばに来ていた藤田が、箱のひとつを指差して訊ねてきた。
指差した先にあるものは、丸いマカロンの詰め合わせだ。
「マカロンですよ」
「マカロン?」
「卵の白身で作ったメレンゲを焼いたお菓子ですよ」
藤田は不思議そうな顔をして、サンプルケースの中を覗き込んでいた。
綺麗に並べられたマカロンは、ピンクや黄色、緑色といった春らしい色合いが美しかった。
「どんな味がするんだい?」
「えぇっと、ピンクがラズベリー、黄色がレモン、緑はピスタチオで茶色がチョコレート、ベージュは紅茶。お菓子の色は素材そのままの色だそうですよ」
立花は箱の裏に書いてある説明文を読み上げた。
「へえ、鮮やかな色だけど人工着色料じゃないんだな」
藤田は感心したように頷いていた。
「食べたこと、ありませんか?」
「ないなぁ。こ洒落たお菓子のことはよくわからんよ」
興味のなさそうな口ぶりをしていながら、視線はツヤツヤ光るマカロンから離れる様子はなかった。
眼鏡の奥で見開かれた瞳がキラキラと輝いている。
「藤田さん、よかったらこれ、食べませんか? オレ、買いますよ」
「え!? 立花君、恥ずかしくないのかい?」
「え、あの、これを買うのがですか?」
「だって恥ずかしいだろう? こんな可愛らしいラッピングでさ。バレンタインの時だって、恥ずかしいと思ったのに…」
そう呟いてから、藤田は一瞬「しまった」という顔をして、その場からそそくさとレジカウンターに逃げていった。
恥ずかしそうに丸めた背中が可愛らしかった。
ああ、そうか。そうだったんですね。
藤田さんも恥ずかしくて買えなかったんですね。
立花はにやける顔を抑えながら、カウンターに隠れる藤田の後を追いかけた。
SWEET×SWEET=WHITEDAY
藤田さん。
何故、この日をホワイトデーと呼ぶのか知っていますか?
白は砂糖の色なんです。
甘く、あなた色に染まる色なんですよ。
カウンター内で小さくうずくまる、その背中を抱き締めて、立花はそっと囁いた。
【Fin】
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