Merry Christmas and Happy New Year
年末年始が休みだなんて夢のまた夢。
サービス業は世間一般が休みの時こそが忙しく稼ぎ時になるのが常だ。
ロマンティックにクリスマスを過ごすこともなく、くたびれた体を引きずりながらも顔は笑顔を保ちつつ。
ああ、なんて忙しい。でも忙しいなんて言えるうちが花なんだと思いながら、「いらっしゃいませ」を何百回、何千回と繰り返す。
つかの間の休憩時間、良紀は缶コーヒーを傾けながら師走の街を急ぐ人々を眺めていた。
賑やかなクリスマスソングが流れる通りに輝くツリーと大袈裟なオーナメント。キラキラ光る金色のリボンに赤と緑と白の配色が驚くほど綺麗だ。
いつもと変わらない街並みのはずなのに歩く人達は皆どこか楽しげで、吐く息の白ささえ喜びに溢れて見えるから不思議だ。
「毎日がクリスマスだったらいいのにね。そうしたら毎日みんな楽しいのに」
幼い頃、そんなことをユウと口にしたことがあったっけ。
そして、それから。
サンタクロースがいるのかいないのかで、ふたりは口喧嘩になった。
サンタクロースは絶対にいるんだと言う良紀に対して、裕一郎はいないと言い切ったのだ。
自分はサンタさんに会ったことがない。プレゼントだってサンタさんから貰ったことがない。だからサンタクロースなんていないんだと泣きながら言い張ったのだ。
本当は良紀もサンタクロースなんていないのかもしれないと心のどこかで思っていた。
お父さんとお母さんがこっそり枕元にプレゼントを置いているのだって知っている。けれどきっとサンタクロースがふたりに頼んだんだと思っていたのだ。
目の前でサンタクロースにプレゼントを貰ったことがないと泣く裕一郎の手をギュッと握りしめて、良紀はこう声をかけていた。
「大丈夫だよ。サンタさん、来るよ。今年のクリスマスはうちにおいでよ。ね?」
ささやかなクリスマスパーティーを家族と開いて、ケーキとチキンを嫌と言うほど食べて、その夜、裕一郎は良紀の部屋にお泊まりすることになった。
そして、あまりに楽しくてはしゃぎ過ぎたのか、あっという間に眠ってしまった裕一郎の枕元に良紀はそっとプレゼントを置いたのだ。
家のお手伝いをしながら貯めたお小遣いでは大したものは買えなかったけれど、裕一郎のために選んだ小さな手袋は真っ白でふわふわしていた。
真っ赤なリボンを結んで貰った時の胸の高鳴りは初めて味わうものだった。
…そう。
サンタクロースなんて本当はいないんだよ。
けれど次の日の朝、プレゼントに気づいた裕一郎の笑顔は、良紀にとって最高のクリスマスプレゼントになったのは本当の話だ。
遠い昔の思い出に浸っているとポケットの中で小さく携帯が震えた。
フリップを開くと裕一郎からのメールだった。
Merry Christmas!
お疲れ様
足が棒みたいになってるよ〜
でもどんなに帰りが遅くなってもケーキは食べるからな!
P.S
サンタクロースは今年も来るのかな?
子供のように目を輝かせた裕一郎の顔が浮かんで見えて、良紀は知らず知らずのうちに笑顔になっていた。
「すごい、良紀くん。サンタさん来たよ。僕のところに本当に来てくれたよ!」
皆さんのところにはサンタクロースは来ましたか?
Merry Christmas and Happy New Year!
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