三丁目


 彼が住んでいる街には三丁目がなかった。
 一丁目と、二丁目で終わり。
 何とも寂しいものだ。
 それをそれとなく訴えると、昔はあったみたいだよと返ってきた。

「あったんだ」
「あったんだよ」
「どこに消えたの」
「さあ」

 あまり興味がないのか、首を傾げると途端に携帯をいじりだす彼。
 ボクは部屋にあった町内の地図をガサガサと広げると、指先で一丁目と二丁目をなぞった。
 どのあたりに三丁目があったんだろうと、あまり質の良くない紙で出来た地図をずりずりと撫で回す。
 指先がカサカサしてくるのがわかる。

「三丁目の何がそんなに気になるんだか」

 呆れたように呟く彼は、携帯に心奪われたまま。

 うん、なんとなくさ。
 うまく言えないんだけど。あったものがなくなるってのがさ、気になるんだよ。

 あったはずのものが、ある日突然消えたりしたら、普通は焦るでしょ。
 それなのに、三丁目がごっそりなくなったのに、誰も焦ってないみたいだから。

 そんな風になくなるものがあるってことが、なんとなくさ、胸がぽっかりするんだよ。

 もしボクも、胸がぽっかりするものをなくしたら、後はどうしたらいいか、わからないからさ。

 泣くことすら、なくしてしまいそうだからさ。

 だから、三丁目の在処を探すんだ。
 涙が流せる場所が、きっとそこにあるような気がするから。


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