落下傘
二人きりのカラオケBOXで、ボクはおもむろに軍歌を検索。
数曲連続で流れるようにする。
別に唄いたいわけじゃない。画面に流れる戦艦やB29や、たくさんの爆撃機の映像を見たいだけだ。
「世が世なら、オマエは今頃徴兵されてイラクにでも駐留してるんだろうな」
いきなり不吉なことを言う。
「オレもオマエも戦後に生まれて良かったな」
笑いながら煙草に火をつけて、ぼんやりと画面に視線を投げるアンタ。
モノクロの画面では、今まさに攻め入らんと落下傘部隊が空からバラバラと舞い降りている。
立ち込める焼夷弾の煙と、厚底の靴が蹴りあげる土埃と。
顔はマスクを被っていてわからないけれど、自分と大して年の変わらない男たちが、パラシュートを外しながら敵陣に突っ込んで行くのが見える。
激しく勇ましい軍歌が続いた後、ふいに曲調の違う歌が流れ始める。同じ軍歌でありながら、妙に爽やかで清々しいメロディと歌詞だ。
…緑成す山々
せせらぐ小川
雄々しい青空に
薔薇色の夕暮れ
見よ
落下傘、落下傘
大地に降りそそぐ…
日本の美しい情景を唄いながら、そこにいきなり落下傘が現れる。
勇ましさも激しさもない曲調に、落下傘だ。
「綺麗な歌なのに、これ怖いね」
「それが戦争の怖さじゃねえの? こうやって美化されてたくさんの人間が死んだんだよ」
竹槍を持った女性部隊が「エイ!ヤー」と空に向かって竹槍を突き刺す仕草を繰り返している。
あれでB29を刺そうとしていたなんて今となってはお笑い草だけど、ああでもしなけりゃ心が挫けて生きていけなかったのだろうとも思う。
「オレ、残酷かな?」
カッコイイというだけで戦艦を見ているし、爆撃機のプラモデルとか大好きだし。
「いや、オレはそうとは思わん。機能的に作られたもんは無駄がないから美しいんだよ。そこに惹かれるのは仕方ないだろ?」
それが喩え、人を殺す道具だとしても。
拳銃もナイフも爆弾も、何とも言えない光沢と美しさを持っているものだから。
ニヤリと笑いながら、あまり旨いとは思えない水割りに手を伸ばすアンタ。
アンタの指先も綺麗だ。
くやしいけれど凄く綺麗だ。
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