うつせみ
ボクの心は一体どこへ行ってしまったのだろう。
ベッドの上に転がされて、叫び声をあげても、ワンワンと頭の中に熱さがこだまするだけ。
「おまえは黙ってイイコにしてろよ」
優しく髪を撫でる貴方は、きっと本当はいいひとなのだと思う。
けれど、暑い日差しを避けて、真っ白なシーツの波間にたゆたうボクは、すっかり空っぽのような気がする。
貴方を求めて独り鳴いていた夜は、とうに彼方へ過ぎ去った。
なのに羽化した心は、どうしてこんなにも悲しいのだろう。
シーツを引き寄せて、丸まって、小さな白い繭玉になって、あの日のボクをまた紡ぎたい。
悲しくて鳴いてばかりだったのに、何故か変に充実していた日々。
恋に恋していたあの頃のほうが、貴方を愛していたよ。
羽化した心はひらり、何処かへ飛んでった。
残された繭玉には、どこかで拾った馬の骨を詰めておこう。
そんな程度だってば。
自分なんてさ。
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