深爪
パチン。
床に新聞紙を広げて、足の指の爪を切る。
時刻は真夜中。丑三つ時。
爪を切る音がやけに大きく響いて、改めて部屋が静かなことに気づく。
傍らのベッドに横になった貴方はいつのまにか眠ってしまって、テレビは点けっぱなし。
画面の向こうでは、アイドルになりたい女の子たちが、水着姿で変なゲームをやらされている。
アイドルになんてなれないよ?
こんな時間にそんな姿をさらして、飢えた男どものオカズにされるだけさ。
パチン。
また、爪を切る。
「夜に爪を切るなよ。世を摘めるって言ってな、縁起が悪いんだ。知らないのか?」
いつの間に目を覚ましたのか、貴方はベッドに上半身を起こして慣れた手つきで煙草に火をつけた。
「似合わないこと言うんだね」
「オヤジ臭いとでも言いたいんだろう」
貴方はテレビに目をやると、デッカイ胸だなおい…などとほざいている。
夜に爪を切るのは縁起が悪いだって?
そんなの今さらじゃないか。
貴方に出逢ってしまったことが、何より縁起の悪いことだよ。
パチン。
爪を切る。
貴方に背を向けたまま。
けれど貴方の気配を伺いながら。
ボクの手足は全てが深爪。
真夜中に切り続けるソレ。
切っても切っても生えてくる、
悲しみや苦しみに似たもの。
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