箱庭 4


 ちょうど半年前。

 立て続けに成人男性が行方不明になるという事件が発生した。


 何の理由もなく忽然と姿を消し、事故か自殺か、はたまた事件に巻き込まれたのかもわからず、日数だけが過ぎていったある日。
 住まいも年齢も職業もバラバラで、何の共通点もないと見えた行方不明者達に唯一同じものがあることがわかった。


 それがこの寺だ。

 彼らはこの寺の檀家の者だったのだ。
 しかもここを訪ねた後、行方がわからなくなっていることが明らかになった。


 無論、強制捜査が入り、境内をくまなく調べたのだが決定的な証拠はあがってこず、現在、事件は迷宮入り寸前にまで追い詰められていた。
 境内のあちらこちらに彼らの指紋が残っているのは当たり前で、寺の近所のゴミ箱から見つかった靴に付着していた土はこの境内のものだった。


 それなのに、肝心なものが、彼らの生死に関わるような証拠が見つからないのだ。


 例えば殺されている場合、現場の血液反応だとか、遺体の一部が見つかるだとか、犯行に使われた凶器らしきものがあるとか。
 めぼしい物は何もなく、涼玄のアリバイも崩すこともできず、半ば捜査員達も諦めかけたその時、杉田は鑑識のひと言に引っ掛かりを感じたのだ。



「何も出てこないのか」
「ん〜、現状としては何とも言い難いんですがねぇ」


 長年付き合いのある鑑識員は、困ったようにその太い眉根を寄せてみせた。


「どんな小さなことでも良いんだが」
「いやあ、この白い砂なんですがねぇ、あの庭の。どうやら動物の骨らしきものが混ざっているようですねえ」


 鑑識員は白い砂の入った小さなビニール袋を杉田の目線に持ち上げてみせた。


「動物の骨?」
「ええ、とても細かいですし、高温焼成されているようですからDNAと取り出すのはちょっと無理そうなんですがねぇ。……これ、人間の骨だったら事ですよ」


 声を潜めるように鑑識員は呟いた。


「なあ、何かを高温で焼くって場所は限られるよな?」
「そうですねぇ、陶芸の窯元とか、ごみ焼却場とか、葬斎場とかですかね」
「斎場か…」
「でも斎場は死体を持ち込んだって勝手に焼くことはできないでしょう? 死亡届が必要ですしね」
「抜け道があるとか」
「あったら大変でしょうね。全ての殺人事件はお蔵入りしてしまいますよ。それに、そもそも遺体が見つからない場合は立件も難しいし、運良く裁判に持っていけたとしても極刑にはならないんですよねぇ、日本の法律じゃ」
「裁判になるならラッキーな方だ。海外じゃグレーゾーンは罪に問えないからな」
「状況証拠を集めて立件、逮捕ですか。あの住職だと何だか支援者が暴動起こしそうですよね」
「暴動? 起こるか?」
「あくまでも、起こりそうだというだけですけど」

 鑑識員は言いにくそうに言葉を続けた。


「あの人、年齢不詳で、何だか変に綺麗というか、吸い込まれそうな、妖しい感じがしますからね」


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