夜明け 13
小一時間ほど走り続けたところで車は緩やかに減速して止まった。
あたりは街の中心部を少し外れた場所で平たい土地が延々と広がっており、その真ん中に金網で囲まれた煉瓦造りの建物があった。
すっかり日も暮れて、あたりは目をこらしても暗がりが広がるばかりだ。
「あの建物は?」
「まあ、慌てるな。じきにわかる」
何が始まるのか検討がつかず焦れる佐倉に、アスランは車のシートに体を預けたまま余裕綽々といった感じだ。
しばらく辺りを伺っていると、どこから来たのか大きな荷台のついた車が建物近くに止まった。さらに別の車が近づき、また別の車が……といったふうに次々と車が現れ、建物の周りをぐるりと囲む形になった。
「奇襲攻撃とか?」
「まさか」
慌てる佐倉にアスランは乾いた笑い声をあげ、シート横にある荷物から小さなライトを取りだし車の外へ降り立った。
佐倉も後を追いかけるように車を降りた。勿論、カメラを手にしてだ。
アスランは辺りを見回すと手にしていたライトをカチカチと二回点滅させた。
すると辺りで同じように点滅する光があった。何かの合図らしい。佐倉の身に緊張感が走った。急いでカメラを赤外線モードに切り換えるといつでもシャッターを切れる体勢を整える。
そんな佐倉の様子に気づいたのかアスランはいつでも写真を撮っていいと許可を出した。そして自分が着けていたカフィーヤを佐倉の頭に被せた。
「これは…」
「被っておけば良い。そうすれば敵視されることはない」
佐倉は小さく頷くと、白く長い布をかぶり直し、構えたカメラを建物に向けた。
すると二階の窓らしきところから、先程と同じように光が点滅するのがわかった。
内に仲間がいるのだろうか。
「アユム、ここはな、政府軍の兵士宿舎だ」
「え、…それじゃかなり危ないんじゃ…」
「危ないのは承知の上。だからこそ数ヵ月前からコツコツと計画を立てていたんだ」
奇襲ではないとすると一体何が。
建物内部からの光の点滅に答えるように、アスランは手持ちのライトを高くかざしゆっくりと回した。
内部の光も同じ動きを繰り返した。
佐倉は一連のやり取りをつぶさにカメラで切り取っていった。
何が起ころうともすでに事は始まっているのだ。突っ込んだ首を元に戻すことはできない。自分に出来ることはただ、今を、この瞬間を、切り取ることだ。
覗き込むファインダーの向こうになにがあろうとも、右手の人差し指の動きに迷いがあってはならない。
建物をぐるりと車が囲んでいるというのに、辺りは物音ひとつ聞こえないほど静まり返っている。
アスランが手にしていたライトも消されて辺りは再び暗闇に包まれた。
近くの木立から鳥の鳴き声らしきものが響いて、いっそう不気味さを引き立てていた。
「ほら、来るぞ」
突然、アスランが声をあげた。
佐倉はアスランの視線の先へカメラを向けた。
しばらくすると建物内部から無数の足音が聞こえてきた。
建物入り口の頑丈そうな扉がいきなり開くと、銃を携えた兵士がわらわらと外へ飛び出して来た。
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