Chibi 5



 その日は仕事上変わったこともなく、川上は定時で帰宅することができた。


 ここ最近、だるそうにしているチビが心配で、同僚の誘いも早々に家路を急いだのだ。
 ドアを開けてまっすぐに寝室に向かうと、ひとりで眠るには広すぎるベッドの隅っこがこんもりと盛り上がっているのが目に入った。
 真っ白な羽根布団の中からチラリと茶色い髪が覗いていて、一日中チビがそこで眠りっぱなしだったことがわかった。


 「…チビ」


 川上は、できる限り、そっと、声をかけた。
 チビは川上に気づくと布団から両腕を差し出し、抱きしめてくれと無言で訴えてきた。川上はスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを引き抜くと、そのまま滑り込むようにベッドへ入り、チビの小さな体を胸に抱き込んだ。


「ケイ、おかえりなさい。眠ってばかりでごめんね」


 チビはポツンと呟くと、再び眠りに落ちていった。
 その細く華奢な体つきに、チビはどこか本格的に悪いのかもしれないと感じ、明日の朝には無理やりでも病院へ連れていこうと心に決め、白く薄い頬を優しく撫でた。
 指先にひんやりと冷たい頬は、なぜか川上を切ない気持ちにさせた。


 そして目覚めた朝。


 川上は自分が抱きしめていたものを目にして、息を詰まらせた。
 フンワリと柔らかく、ほのかに暖かいソレ。
 昨夜、胸に抱きしめたのは愛しいチビであったはずなのに。目の前にあるのは一体何なのか、判断に困った。
 白く柔らかで、手触りはフカフカしていて少しだけ硬さがあるような感じ。大きさは大人が両腕で抱きしめられるくらい。


 一体、何が起こっているのだろうか。
 川上は呆然とソレを眺めていた。


 ベッドを占領しているソレ。


 それはどこをどう見ても、白く、巨大な繭玉だった。


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