白獣色窯変 9


 ぎらぎらと光る眼は深い闇を湛え、ひょろりとした小太郎の肌の白さを映していた。


「美しいだろう?」


 鋭い眼差しのまま、花村が呟いた。その視線から逃れる術もなく小太郎は喘ぐように頷いていた。
 熱いのは炎のせいばかりではなかった。花村自身が熱い身を持って近くに迫っていたのだ。


「飛んで火に入る夏の虫…って、知っているか?」


 小太郎の背後から覆い被さるように、花村は体を近づけた。
 耳元で低く囁く言葉は、小太郎の脳髄を痺れさせるほど甘さを孕んでいた。


「僕が…その虫と、同じだと…仰るのですか?」


 後ろにいる花村の顔は見えないが、フッと笑った気配を小太郎は感じた。


「虫ではないな」
「…じゃ、何なんですか」


 ゆらりと花村が動く気配がした。するりと腰に回された手に驚いて身を翻すと、太い腕にそのまま体を押さえ込まれ、強か地面に顔を打った。


「なっ…にを、」
「おとなしくしていれば悪いようにはしない」
「離せっ」
「力は入れていない。お前の体が動かないだけだ」


 何を訳のわからないことをと思いながら、捻りあげられた腕をそのままに、投げ出された足を振り上げようとして、サッと血の気が引くのを感じた。
 動かないのだ。ピクリとも。腰から下への神経がバッサリと切られたように、ほんの少しの力も入らない。
 何故、どうして…と思いながら、母屋で出されたお茶に細工がされてあったのだと思い当たった。


「な、にを、する気だ」
「お前も俺も嬉しくて楽しいことだ」


 どこまでも穏やかな口調とは全く逆の仕打ちに、小太郎はうち震えた。
 力強い眼差しに隠された狂気に気づけなかった自分を悔いた。


「震えることはない」
「離せっ、離せ! なんだよ、アンタ、こんなことするなんて。僕が何をしたって言うんだ、離せ、よ、…くっ」


 何をされるのかわからない恐怖が小太郎を饒舌にさせていた。
 どこから取り出したのか、麻縄で後ろ手に縛られた腕にも力が入らなくなり、胸にせりあがる苦しさも次第に麻痺して、目の前がぼんやりと白く歪んでいくのがわかった。


「お前に言っただろう?」


 花村の声が近くなったり、遠くなったりしながら、少しずつ吐息のように淡く消えていく。


「お前は運がいいんだって言っただろう?」


 パチンッと薪がはぜる音が聞こえる。
 漂う煙と木が燃える焦げ臭さと、汗の混じった土埃の匂いが小太郎の鼻をついた。


(ああ、綺麗だな)


 意識が途切れる前に小太郎の目の端に映ったのは、赤々と燃え盛る窯から吹き上がったひとすじの炎だった。


[*前] | [次#]
[目次]





×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -