白獣色窯変 8



「今回は還元焼成をさせて青みを出す予定だ」


 花村が窯の中に器を並べながら、小太郎を振り返った。これから楽しいことが始まるのだと期待に満ちた黒い瞳は、皺の刻まれた浅黒い顔に似つかわしくないほど若々しく、どこか無邪気にも見えた。
 整然と器の並べられた窯に薪を入れ、火を放つ。
 窯焚の始まりだ。


 まずは窯内部を高温にする為に薪を次から次へとくべていく。
 辺りに白い煙が立ち上ぼり、小太郎は一気に木が焼け焦げていく匂いに包まれていった。使い込まれた軍手と頭に巻くタオル、煙を吸ってむせないようにと渡されたマスクを慌てて着けると、赤々と炎を踊らせていく窯の中を覗き込んだ。


 真っ赤というよりは、夕焼け空の濃いオレンジが貼りついたような色だ。温度が上がれば次第に色も薄く白っぽく変わっていくのだろうと思った。
 とにかくたくさんの薪を入れていけと言われ、小太郎は素直に薪をくべていった。温度が高くなり窯内部が炎で満ちると、窯の上部に開けられた空気穴からうねるように赤い炎が踊り、火の粉を撒き散らすようになる。


 火にあてられて顔が熱い。いや、実際に火の粉が舞い降りてきて、チリチリと小太郎の白い肌を焼いている。火の熱さと身の内から沸き上がってくる熱さがあった。じわりじわりと汗が毛穴をこじ開けて吹き出してくる。気づけば、たらりたらりと背中に流れるものを感じていた。


 薪をくべるたびにパチパチと火花が上がり、目の前には真っ赤に燃え盛る炎だけがあった。うねるようにその身を揺らす炎は窯の中で踊り狂う赤い龍のようだ。
 並べられた器を長い舌で舐め回し、ぬらりとした体で抱き込み、炎に身を焦がしながら器と共に昇天していくのだ。
 小太郎は美しく踊り続ける炎に魅せられていた。たた一心に薪をくべながら、立ち上がる炎に自分の全てが巻かれていくような心地さえしていた。


 それは熱くも苦しくもなく、いっそ滴るほどに甘美な誘惑に似ていた。
 炎に飛び込んでいく小さな虫のような、抗えない何かを感じるほどに。
 肌に当たる火の粉が消せない穴を開けて、そこから信じられないほどの熱が抉りこまれたとしても、叫ぶ断末魔はきっと甘い悲鳴にか聞こえないだろうと思った。


 ふと、小太郎は後ろを振り返った。
 射抜くように鋭い眼差しの花村が立ちはだかっていた。



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