白獣色窯変 5


 窯焚(かまたき)とは陶器を焼くための行程のことである。

 窯に薪で火をくべて、内部を1000℃以上に保ちつつ数日間かけて陶器を焼き続ける作業で、短いものなら1日、長いものなら10日間かかる場合もある。
 その間、火の温度を下げることなく薪をくべ続け、24時間不眠不休の荒行を受けている状態になり、精神的にも体力的にもかなりの重労働を強いられるものだ。


 現在はガス窯や電気窯の普及で昔よりも大掛かりな窯焚は少なくなったが、やはり戸外で行われる窯焚は大変な分、その行程も出来上がる作品も感慨深いものがある。
 自然の中で、ただ一身に火に向かい窯に薪をくべ続ける作業は、日頃の生活に削り取られてしまう時間や空間や音を取り戻すような心地がするものだ。
 空気を吸い込んでは吐く肺の当たり前の動きや、身体中に流れる血液を押し出す心臓の鼓動や、遠くで微かに鳴く鳥の声に反応する耳や、目の前で燃え盛る炎の動きを見つめているだけで、いま自分が生きているという事実を実感できる。

 窯焚は命の行なのだ。


 思いがけず花村の窯元に泊まることになった小太郎は、その夜、花村から窯焚についての話を聞くことになった。
 多少の知識はあったのだが、実際はかなり大変な作業であることがわかった。それでも花村の手伝いが出来るならと小太郎は自ら進んで頭を下げていた。

【いま自分が生きているという事実を実感する】

 それこそが多分、花村が陶芸家でいる理由なのかもしれないと小太郎は思った。

 そして客間に通され、辺りも静まり返った真夜中すぎ。小太郎は小さな物音で目を覚ました。
 コリコリコリ…と、何かを擦るような音だ。
 時折、ゴツゴツと叩くような音も聞こえてくる。
 花村が作業場で何かしているのだろうかと思い、小太郎は布団を抜け出して明かりの漏れる作業場の戸口にそっと身を屈めて中を覗き込んだ。

 大きくて長いすりこぎを手に、花村が無心に何かを擦り潰していた。
 それは白くて細長く、少しだけ丸み帯びたモノ。
 普段の生活の中ではあまり見かけない代物だが、小太郎はただ一度だけそれと同じものを見たことがあった。

 五年前、自分を可愛がってくれた祖母が亡くなり葬儀に参列したあの日。
 荼毘に付された祖母が横たわっていた台に遺されていたものは、触ればもろもろと崩れてしまいそうな真っ白な骨だった。
 花村はそれによく似たモノを擦り潰しているのだ。

 小太郎はその生々しさに息を飲み、物音を立てないように静かに寝所へ戻った。
 そして、焼き物に動物の骨を使うことはよくあることだと思い返していた。ボーンチャイナという名前はそこからきているのだからと。
 しばらくの間、コリコリという音が小太郎の耳に聞こえていたが、まぶたを閉じてじっとしているうちに眠りに落ちていた。


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