白獣色窯変 1


 コリコリコリ…と小さな乳鉢の中で白い粉を擦り潰す。
 ある程度の細かさになったら指先に取り、擦り合わせて、その細かさを確認する。

 こんなものだろうか。
 花村は指先に広がった白い粉を凝視した。
 その細かさはまるで天花粉のように柔らかで、吹けば辺りにぱぁっと広がって消え失せてしまうほどだ。

 乳鉢を両手で支え持ち、そろそろと作業場へ歩いて行く。
 数日前から水に晒した土が、いい具合に出来上がっている頃だとほくそ笑む。

 孤高の芸術家。
 そんな冠をつけられたのはいつの頃なのか。花村は世間が自分に持つイメージなど意に返さない男だった。
 決して高くない上背に似合わない逞しい肩と腕。
 一年のほとんどを山奥で過ごすストイックな横顔。
 浅黒い肌に刻まれた深いシワと眼差しの強さ。

 その俗世間を華麗に無視する姿が余計に彼を孤高足らしめ、寡作でありながら彼の作り出す陶器を心待ちにするコレクターが後を絶たない。
 彼は確かに現代の名工であった。

 作業場に入った花村は、手にしていた乳鉢をそっと近くの棚の上に置くと、そこから外へと続く戸口へ足を向けた。
 渇いて白茶けた大地が広がる山間の小さな窯。
 少しだけ開けたスペースに田んぼのように四角い堀を作り、そこに水を流し込んだ。
 さらに山間の奥にある土を運んで、そこで泥を作る。
 数日置いて、水と土を分離させて水だけを捨てる。すると良質な土だけが下に残る。さらにそこに水を加えて混ぜ、また数日放置して水だけを捨てる。
 それを数回繰り返すと、そこには陶器に適した柔らかで強靭な土が出来上がるのだ。

 花村はスコップを手にすると、出来上がった土をバケツに移し作業場へ運び入れた。
 大して広くもない作業場だ。
 壁一面にはコンクリートブロックに板を渡しただけの棚が並び、その上に釉薬の掛け具合や火力の違いで、様々な姿を見せた陶器の欠片が見本のように並んでいる。
 荒々しく火の舌が器の肌を舐めていったような痕があったり、微かに表面がひび割れてえも言われぬ紋様が浮き出ていたり、わざと器に藁を巻き付けて焼成させ、藁の燃えた痕を赤く残してみたり、有りとあらゆる技法を試した痕跡が此処彼処に残っている。

 しかし今、彼の心を捕らえているのはそんな荒々しいものではなく、もっと上品で、もっと倹しく、もっと繊細で美しい焼き物だった。
 花村が普段、寝所として使っている畳の間にそれはひっそりと飾られている。
 真っ白とは言えない白さと、柔らかなぬくもりと、それに反した硬質でつるりとした手触りを持つ陶器だ。


[*前] | [次#]
[目次]





×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -