血と骨 1


 秋晴れの青空に一筋の煙がたなびいている。
 白く長く揺れながら、空の大気の中へ淡く消えていく煙。
 それを仰ぎ見ながら、浩二は静かに目を閉じた高志の白く透き通った肌を思い出していた。

 高く聳え立つ煙突の先から、高志はあの日の言葉通り旅立っていった。

「うちの家系は短命なんだ。特に男がね」

 付き合い始めて間もない頃。
 いきなりの言葉に鼻白む思いがした。
 まるで、お前とは長く付き合えないよ、本気になるなよと牽制されているような気がしてとても哀しかった。
 けれど、高志は本当に逝ってしまった。
 病気とか事故ならまだしも、何の原因もわからないまま、ぷっつりと糸を切るように消えてしまったことに、浩二は未だ夢でも見ているような心地でいる。

 ただぼんやりと空を見上げていた浩二は、後ろに人の気配を感じてゆっくりと振り返った。
 そこには高志の面差しに良く似た喪服の女性が佇んでいる。高志の姉、雪子と母親だ。
 他に弔問客もなく、浩二を含めた3人だけの葬儀は何ともうら寂しく、浩二を居たたまれない気持ちにさせた。

 世間に胸を張って高らかに宣言できるような関係ではなかったのに、自分だけがまるで身内のような扱いを受けている。
 確かに恋人との最期の別れに立ち会えたことは幸運だったと思うし、普通なら拒絶されてもおかしくないのに声をかけて貰えたことも有り難かった。
 けれど、遺された彼の家族と共に同じ場所に立っていること事態が何とも奇妙で滑稽な感じだった。

「浩二さん、実はお願いがあるのです。是非お家へ来て戴けませんか?」

 艶やかな黒髪を結い上げた小さな顔をこちらに向けて、雪子が軽く頭を下げる。
 何だろうと思いながらも浩二は「はい」と答えて、黒塗りの立派な車に同乗した。

 高志の家はこの辺りの地域では少し名の知れた旧家だ。
 それなのに何故、3人だけの密葬にしたのだろうか。近くに親戚がいないとも思えない。
 浩二は車窓に映る田園風景を眺めながら、心の奥底から不意に浮き上がってくる【澱】を何度も何度も沈め返した。

 目の先に青々とした竹藪に囲まれたお屋敷が見えたところで車はエンジンを止めた。
 車から降り立つと、立派な門構えは檜の良い香りがして、この家が間違いなく名の知れた旧家であることを証明していた。

 さあ、どうぞと即されて、浩二は飛び石の並ぶ小道を歩きだした。
 手入れの行き届いた庭園は美しい緑を湛えてそこにあった。目の端に入るつくばいや、何気なく置かれた石の数々が、浩二の良く知る世界とはまるで違うことがわかる。
 玄関をくぐれば更に見たこともない空間が広がっているに違いない。
 浩二は足元の定まらない自分を感じながら、先を行くふたりの女性に従い、奥まった場所にある離れのような部屋に入った。


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