僕に光をくれるひと 6
「も、離してください。恥ずかしいから」
消え入りそうな声で伝えると、成瀬は悠介の手をとって部屋の窓際にあるソファーへ座らせた。
おもちゃとか、足元にあるから気を付けてねとひと言残すと、成瀬は所長さんに渡すものがあるからと部屋を出ていった。
残された悠介に数人の子供たちがまとわりつき、質問を投げてくる。
「ゆうすけはいくつ?」
「16歳だよ」
「この白い棒はなあに?」
「これかな?」
悠介は右手に持っていた白仗を持ち上げてみた。
「うん、それ」
「これは白仗といって、目が見えないひとが持つものだよ」
「ハク、ジョウ…?」
「それじゃあ、ゆうすけは目がみえないの?」
「うん、病気で見えなくなっちゃったんだ」
改めて自分で口にした事実に、気持ちがズンと沈んだ。けれどそんな気持ちを悟られないように、口調を明るくして笑顔を作った。
「でも大丈夫だからね」
「あのさ、ボクが死んだら、ボクの目をゆうすけにあげるよ」
「え?」
「ボクも〜」
「わたしもあげる」
「え、ちょっと何言ってるの。ダメだよ、そんな簡単に死んだらなんて言っちゃいけないよ」
そこまで言ってから、ハッと気づいた。
ここは療養所だ。皆、病気を抱えながら、必死に生きようと頑張っている場所だ。
ボクが死んだら…という言葉は、きっと子供たちの精一杯の気持ちに違いない。
「あ、ありがと。でもさ」
「うん、わかってる。でもホントにあげるよ。ボクがあげたいからいいんだよ」
諭すような口ぶりだった。
そして、小さな手のひらが悠介の頭に置かれると、驚くほど優しげに髪を撫でた。
「ボクが死んだら、ボクの目をあげる。ゆうすけにあげる。やくそくだよ」
胸の奥が、ぎゅんと痛くなった。
小さな指が悠介の小指に絡まって指切りさせられると、悠介の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
小さな手のひらは、そんな悠介の頭をずっと優しく撫でていた。
しばらくしてから戻ってきた成瀬は、悠介の顔を見るなり「ブサイクになってる」と言って子供たちに怒られた。
その怒られ方があんまり酷いから、悠介は可笑しくなって笑いころげた。
子供たちも一緒になって笑い始めて、その後は色んな話を聞いたり、大切な宝物を教えて貰ったりして楽しく過ごすことが出来た。
帰る頃には本当に名残惜しくて、悠介はまた来るからと何回も口にしていた。
車に乗り込んでからも、何回も後ろを振り返った。
本当は、もう会えないかもしれないことがわかっていたから。
成瀬は療養所だと言っていたが、明らかにここはホスピスだと悠介は気づいていた。
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