僕に光をくれるひと 4


 大きくて温かい手のひらが、前髪をかきあげる。
 そこに柔らかいものが触れた。

「やっと、触れた。ずっとこうしたかったんだ…悠介くん、好きだよ」

 囁かれる言葉に、悠介は嘘みたいだと思った。
 そっと動く指先。
 木を削り、曲げて、この世にたったひとつの椅子を作り出す職人の大きくて厚みのある手。
 大切な宝物を扱うような成瀬の優しい指先に心が震えだす。
 こんなことが起きるなんて。
 悠介は固い胸元に顔を擦りつけた。成瀬の匂いがする。抱きこむ腕の力を感じる。安心して全てを投げ出せる体温がある。
 ああ、もう大丈夫だ。この腕があれば、僕は歩いていける。心の奥底から沸き上がる想いがあった。

「成瀬さん、僕は手術を受けません」
「…嫌なのか?」

 ゆっくりと身体を起こされた。成瀬の両手が顔を包み、親指が何度も目の下の辺りを撫でた。そこから成瀬の気持ちが染み込んでくるのがわかった。

「成瀬さん、僕はずっと目が見えるようになりたいと思っていました。成瀬さんの顔が見たいって思ってました」

 悠介は成瀬の手首を掴んだ。気持ちが伝わりますようにと指先に想いを込めた。

「でも、もういいんです」
「いいって、諦めるのか?」
「いえ、そうじゃなくて…」

 悠介は少し躊躇いながらも、言葉を続けた。

「成瀬さんがいればいいです。目が見えなくても。成瀬さんがこうしていてくれれば、僕はもう…」

 生きていけますから。

 続くはずの言葉は成瀬の唇に飲み込まれていった。

 ずっと独りぼっちで、暗闇を歩いていくんだと思っていた。それも仕方ないことだと思ってきた。
 でも本当はツラくて悲しくて、やるせなかった。
 同じような立場の人もたくさんいるんだ、甘えるなと言われる度に、見えない人間の気持ちがわかるのか、見えなくなってみろと言葉を投げたこともあった。

 結局は全てが怖かっただけだ。
 それでも生きていかなければならないという命の重さが怖かった。自殺すらできなかったほど…怖かった。

 けれど、成瀬に出会って、その温かさに触れて、自分でも驚くほどに毎日が楽しくなった。
 たった一枚のCDが、忘れかけていた喜びを連れてきてくれた。
 もう充分だ。もう、これ以上は望まない。望まなくていい。
 成瀬の心地よい身体の重みを感じながら、悠介は目の奥に白い光を感じた。
 そこに確かな光が見えた…と思った。


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