ありがとうの代わりに
毎日、毎日、同じことの繰り返しで飽きないのかと言われることがある。
店を開け、掃除をして、豆を仕込んで、水を濾過して…
雨の日も、風の日も、変わりなくそこでコーヒーを淹れ続ける生活。
他人から見れば代わり映えのない単調な毎日に見えるのだろうと思う。
けれど毎日は決して同じではなく、豆も水も毎日同じ状態であることはない。
豆も水も、ボクたち人間と同じように呼吸をして、温度や湿度を感じている。
そう、ボクたちと同じように
『生きている』のだ。
だからボクはいつも、豆たちのご機嫌を伺い、水に挨拶をして、ミルクに祈りを捧げる。
コーヒーを淹れるという行為は、多分、世の中のあらゆるものに感謝しながら、そのちょっとした恵みを戴くことなんだと思う。
そう考えるとボクの毎日は決して単調ではなく、かなりの大忙しであっという間に過ぎていってしまう。
だからこそ、焦らず丁寧に生きていきたいと考えている。
それこそがボクの淹れる一杯のコーヒーの味になるから。
キミが悲しみに暮れるとき。
キミが喜びに奮えるとき。
そこにボクがいて、一緒に心を分かち合うような、そんな想いのある一杯を提供したい。
キミが疲れたとき。
キミが誰よりも頑張っているとき。
その背中にそっと手を置くような、そんなぬくもりのある一杯を届けたい。
そんな風に思えるのも、いつもボクの傍で笑ってくれるキミがいるからだよ。
だから毎日、ボクはキミへの感謝の気持ちでコーヒーを淹れることにしているんだ。
ありがとう
愛してくれて
ありがとう
愛することを
受け入れてくれて
365日。
毎日淹れるコーヒーは、全てキミへの想いが詰まった、
ボクからのラブレターです。
和臣へ 洋行より
(main小説「金星」より)
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