恋する月曜日 2
ガチャガチャと自宅ドアの鍵を開けると、玄関に自分の靴よりも一回り大きなスニーカーがあった。
去年のクリスマスに良紀が裕一郎にプレゼントしたオニツカタイガー。
愛用してくれているんだなと実感すると、良紀の口元がへにゃりと崩れる。
ただいまと声をかけながら部屋へ入ると、裕一郎はお気に入りの黒いレザーソファーに長い手足を投げ出したまま眠りこけていた。
良紀の気配には全く気づかないほど、深く眠っているようだった。
接客業は自分でも気づかないうちにストレスを溜めてしまうものだ。
良紀も疲れてはいたが、裕一郎はそれ以上なのかもしれなかった。
直接お客様の髪に触れる仕事は、良紀の想像をはるかに上回るほど体力や気力を消耗するのだろう。
伏せられた目蓋を縁取る黒くて長いまつ毛が裕一郎の顔に陰影を作り、まるで動かない彫刻のような冷たさを感じさせる。
何だか嫌だな。
良紀は確かめるように体を屈めソファーに右膝をついて、うっすらと疲れを浮かべた頬に指先を滑らせた。
両手で優しく包みこむと、じんわりと温かさが伝わってくる。少しだけホッとして、そのまま薄く開いている唇にキスを落とした。
そして体を起こそうとしたところで、自分の腰に回された力強い両腕に気づいた。
「…良紀、もう一回」
瞳は閉じたままで、裕一郎は囁くようにキスをねだった。
いつから目を覚ましていたのか、回された両腕は良紀の細い腰をがっちり捕らえて離さない。
「…ユウ」
良紀は柔らかな唇を落としながら、両手をソファーにつき身体を支えた。
その時、腰に回された左腕が持ち上がり、その手のひらが良紀の後頭部を掴んだ。
「…ん、んん」
裕一郎の右腕は腰に絡み付いたまま、左手で頭を押さえ込まれて、良紀は下から噛みつかれるようなキスを受けていた。
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