火曜日のロミオ 1


 人生には三回、転機が訪れるという。


 ならば、これは自分にとって二回目の転機なのかもしれないと裕一郎は思った。
 一回目は勿論、良紀に出会ったことだが。


 高校受験を目前に控えた日のことだった。
 父親から告げられた言葉に戸惑ったのは、裕一郎が戸籍について全く知識がなかったことと、何で今なんだ?…という思いがあったからだ。


 自分の父親と母親が正式に結婚していないという事実は何となくわかってはいた。
 自分と母親は同じ姓名なのに、父親だけが違ったからだ。
 だから始めは自分は父親の実子ではないのかもしれないと思い悩んだ時もあったのだが、蓋を開けてみればただ単に入籍をしていなかっただけだとわかった時の脱力感は記憶に新しい出来事だった。


「これから籍を入れに行こうと思う」


 受験を控え、多少ながらナーバスになっていた裕一郎にこんな爆弾を投下する父親は、画家としてやはりどこか常人とは違う感性を持っているのだろうと変に納得してしまう自分が可笑しかった。
 また、それを普通に受け入れて、いそいそと嬉しそうにお洒落をしていた母親もまた、どこか一般の人間とは違う感覚の持ち主なんだろうと感じていた。
 そもそも、何故子供が中学生になるまで入籍していなかったのかが謎だった。


 裕一郎は【事実婚】という言葉を知らなかったし、入籍していなかったのには深い訳があることも知らなかった。


「高校入学してから名前が変わるよりは、受験の時点で変えた方が後々、楽だろう?」
「確かにそうね」
「だから今日中に行ってしまおうよ」
「わかったわ」


 自分の目の前で会話を展開していく両親に、口を挟む余地などなかった。
 そして、あれよあれよという間に裕一郎の名前は「佐藤」から「守山」に変わり、正式に守山裕輝の子供になった。


 元々、間違いようのない実子なのだが、ここが戸籍の難しい処なのだ。
 入籍なしに子供を産んだ場合、その子供は母親の戸籍に登録され私生児扱いされることになる。
 勿論、父親が間違いなく自分の子供だと認知すれば私生児ではなくなるのだが、戸籍は母親側のままになるのだ。
 正式に父親の子供になるのには、色々な手続きが必要になり、両親が入籍をしただけでは実子にはなれず母親の連れ子ということになってしまう。


 そこからさらに養子縁組をしなければならないという面倒臭さがあるのだ。
 本当の子供だというのに、何故にDNA鑑定など受けなければならないのかと裕一郎は憤慨したが、正式に家族になる為に必要なのだと言われれば、親の為にも致し方無いことなのかと半ば無理矢理自分を納得させて、父親の言うことに従ったのだった。


 そして、慌ただしい日々が過ぎて、たったひとつ、どうしても気に病んでしまうことあった。
 名前が変わることは仕方ないとして、この事実をどんな風にして良紀に伝えればいいのかと考えていた。


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