恋する月曜日 6


 ふと、良紀は暗闇の中で目が覚めた。
 カーテンの向こうはまだ夜明けには早いようで、街が眠りから覚める音は聞こえてこない。

 いつの間に眠ってしまったのか。ズシリと身体が重く、動こうとすると下半身にズンと鈍痛が走った。
 
「いってぇ…」

 ふぅと息を吐きながら、もぞりもぞりと身体を右へ向けると、昨夜の野獣が両腕を良紀に絡めたまま深く眠っていた。

 昨日の裕一郎は、いつになく乱暴でずっと怒っているような感じだった。
 けれどこんな風に抱きついているのを見ると、怒っていたわけではなく、ただ構って欲しくて焦れていただけなのかもしれないと思った。

 確かに今週はセールの準備で忙しくて、帰宅すれば眠気に負けてあまり話を聞いてあげていなかった。
 疲れているのはお互い様だけれど、ほんの数分でも正面を向き合って言葉を交わしたり、優しく抱き締めあうこともできたはずだ。

 良紀は裕一郎の黒くて硬めの髪に指を絡めた。
 男らしい顔立ちだなと改めて思う。閉じられた目蓋の縁にびっしりと並ぶ睫毛も、すっきりとした鼻筋も、昨日意地悪なことばかり吐いた唇も。
 幼い頃からずっと変わらず傍にいるのが、ふたりにとって当たり前の日常の姿だ。

 この当たり前を失わない為にも、もう少しだけ思いやりを持とう。
 良紀は裕一郎の乱れた前髪をかき上げると、そこに現れた広い額にキスをした。

 もうひと眠りしたら、今日はどこにも出掛けずに話をしよう。
 ベッドの中でだらだらして、手と足は絡めたままで。
 今週はどんなに忙しくて大変だったのか、どんなお客様がいて、どんなお話をして……困ったこと、バカみたいに楽しかったこと、どんな些細なことでもいいから、ふたりで話そう。

 パジャマのままで1日を過ごして、またキスをして、抱き合ってもいいよ。

 良紀は自分よりも大きな裕一郎の頭をギュッと胸に抱き込んだ。
 さらさらと顔にあたる髪と、重みのある温かさ。
 腕にかかる裕一郎の吐息に、ああ、生きてるんだな…なんて馬鹿みたいなことを考えた。

「おやすみ、裕一郎。また明日…じゃなくて、また今日…だね」

 今日は月曜日。
 ふたりにとっては、かけがえのない毎日の続き。

 良紀は小さく欠伸をすると、裕一郎とひとつに丸まったまま目を閉じた。


【Fin】


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