きっかけ

「白石くん、部活大変なの?」
「…は?」

唐突に言われたその言葉に思わず呆けた声が出てしまった

「何でそう思うん?」
「だって、ノート取ってる時の白石くんの左手の動きが微妙におかしくて」
「…」

違った?と言う様に少し不安げな表情で此方を見てくる冷泉さんに言葉が出てこなかった
・・・正直、大当たりだっやったから

今朝の朝錬で銀さんの打球を返した時に少しやってしまったのだ
一応湿布も張ってるし大丈夫だろうと余り気にしない様にしていたのだが、彼女は些細な手の動きで気付いたという

「…冷泉さん、今日部活に一緒に来てくれへん?」
「いいよ?」

心底不思議そうに首を傾げる冷泉さんに苦笑する
一年と少し彼女と一緒に居て二年になってからも同じクラスやったけど…彼女の特技に気付かんかったとは

「――あの人は少し右側を意識し過ぎてるね、何かあるのかなぁ?それとあの人、無表情っぽいけど辛そう、絶対体調悪いから休ませて、後あの人―――」

部活に連れてきた冷泉さんはすらすらと周りを見ながらも言葉を途切れさせることは無かった。
テニスのルールとか知らんはずや、けど何処を意識してるだの少し反射が遅いとか言い当てて見せる

「白石ぃ・・・冷泉ちゃんにこんな特技あるんやったらはよ連れてこんかい!」
「俺かて今日知ったんですって」
「今日?」
「俺が左手やったのすぐ気付いたんですわ」

俺がそう言うとオサムちゃんは少し考えてから緋蝶にニット笑って言う

「冷泉ちゃん、自分うちのマネージャーやる気あらへん?」
「ま、マネージャー…ですか?」

ポカンとした後に言葉の意味を理解したのか全力で断り始めた緋蝶は今でもよく覚えている
あの頃はホント部長になりたてで色々焦っていたから、自分の事も周りの事も少し見えてなかった
けど緋蝶はそんな自分に何も言う訳でもなくそっと見守りつつも見えていない部分をそっと教えてくれるのだ

緋蝶がマネージャーになって、関わる時間が増えるにつれて俺は緋蝶自身が気になりだした
もっと知りたい、笑った顔が見たいなんて思ってた時だった


「もーじれったいんだから!さっさとくっついちゃいなさいよ!」
「そうや、自分等なんでまだ付き合ってへんのや!」
「まぁ付き合ったらそれはそれでまた煩くなりそうですけどね」
「財前相変わらず口悪いなぁ」

周りでそんな会話をされて漸く当てはまらなかった感情の名前がやっとわかった
そうか、俺は冷泉さんの事が好きなんや 

そう思った途端その感情はストンと心に入った

その日から数日後、見事付き合うことになってからは
財前の言うとおり本当にうるさくなったのだが、白石自体はその事に気付きもしていないのだった。




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